美容成分として知られる「アゼライン酸」と「レチノール」。
これら2つの成分ですが、美容目的として利用する場合、どちらの成分の方が良いのでしょうか。
本記事では、「アゼライン酸」と「レチノール」の違いを説明し、どちらの成分の方が良いかということを解説したいと思います。
記事の後半では、「CBD」という美容効果が期待されている成分についてもご紹介したいと思います。
アゼライン酸とは?
アゼライン酸は、小麦やライ麦などの穀物や酵母に含まれる天然由来の成分で、ジカルボン酸の一種です。自然由来でありながら、多彩な効果を持ち、スキンケア分野で注目されています。
アゼライン酸は肌が弱い人にも使いやすく、多くの製品では10%以下の低濃度で設計されており、安全性と効果のバランスが考慮されています。
なお、アメリカではFDA(米食品医薬品局)の承認を受けた医薬品成分として活用されていますが、日本では未承認のため医薬品としての取り扱いはされていません。
そのため、国内ではスキンケア製品などを通じての使用が一般的です。
レチノールとは?

レチノールは、ビタミンAもしくはその誘導体の一種であり、スキンケアにおいて特にエイジングケア成分として注目されている成分です。
この成分は刺激性のある成分としても知られており、使用初期には乾燥・皮剥け・赤みなどの肌トラブルが起こりやすい傾向があります。
特に濃度が高い製品ほど反応が出やすいため、初心者は0.1%以下の低濃度製品から使い始めるのが推奨されています。
なお、レチノールは市販の化粧品や医薬部外品に含まれますが、医師の処方が必要な「イソトレチノイン」や「レチノイド(アダパレン、トレチノインなど)」とは異なる成分です。
アゼライン酸とレチノールの違いは?どっちがいいかを解説
効果の違い
アゼライン酸 | レチノール |
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アゼライン酸とレチノールには、上記のような効果の違いがあります。
以下では、アゼライン酸とレチノールに期待されている効果を詳しくご紹介したいと思います。
アゼライン酸
アゼライン酸は、過去の研究から主に以下のような効果が期待されています。
- 皮脂分泌の抑制
- 角化異常の抑制
- 抗炎症作用
- メラニン産生の抑制
例えば、皮脂分泌の抑制は2007年の研究で確認されており、この研究ではアゼライン酸を12週間使用したことで、額・顎・頬の皮脂分泌量が平均13〜15%減少したことが報告されています。
また、角化異常の抑制は1989年の研究で確認されており、この研究ではアゼライン酸が角化細胞のDNAやタンパク質合成を用量・時間依存的に抑制したことが報告されています。
レチノール

レチノールは、過去の複数の研究から主に以下のような効果が期待されています。
- シワ改善
- 肌の弾力アップ
- 毛穴(開き・たるみ・詰まり)の改善
- シミ・くすみの改善
例えば、シワの改善と肌の弾力アップは、2007年の研究で確認されており、この研究では0.4%レチノールを24週間使用した高齢者の肌で小ジワの減少とコラーゲン生成の増加が報告されています。
また、シミやくすみの改善は、2020年の研究で確認されており、0.3%および0.5%のレチノール美容液を12週間使用した結果、色素沈着やくすみが徐々に軽減され、肌のトーンが明るく均一になったことが報告されています。
肌への影響の違い
以下では、アゼライン酸とレチノールの肌への影響の違いを詳しくご紹介したいと思います。
アゼライン酸
アゼライン酸は、刺激が比較的少なく、穏やかな使用感が特徴の成分です。
使用開始時に軽い刺激やピリつきを感じることがありますが、使い続けることで肌が慣れやすく、敏感肌の方やスキンケア初心者にも取り入れやすいとされています。
また、保湿成分との相性が良いため、乾燥を防ぎながらケアしやすいという利点があり、赤みや乾燥が気になる方にも使いやすい成分としても知られています。
長期的に安定して使いやすいことから、継続的なスキンケアに適していると言えるでしょう。
レチノール
レチノールは、エイジングケア効果に優れる反面、使用初期に刺激が出やすい成分です。
特に「レチノイド反応」と呼ばれる乾燥・赤み・皮むけなどの症状が、高濃度製品では起こりやすく、慎重な導入が必要とされます。
そのため、使用を始める際は、低濃度・低頻度からスタートし、肌の状態を見ながら徐々に使用量を増やしていくことが推奨されます。
効果の高さゆえにやや扱いに注意が必要ですが、適切に使えば肌のハリや明るさを高める力を持った成分です。
結局、アゼライン酸とレチノールはどっちがいい?

結論から言うと、アゼライン酸とレチノールはそれぞれ期待される効果や肌への影響が異なるため、単純にどちらが優れているとは言い切れません。肌悩みに応じて選ぶことが大切です。
アゼライン酸は、顔の赤みを落ち着かせたい方や、繰り返すポツポツとしたニキビが気になる方に向いています。
乾燥肌や敏感肌でも比較的使いやすい成分であり、刺激を抑えた設計の製品であれば、肌トラブルを避けながら継続的なケアが可能です。
一方、レチノールは色素沈着の改善や、小ジワのケアを求める方に適しています。
特に肌のハリやなめらかさ、明るさを取り戻したいときに有効ですが、刺激を感じやすい成分のため、使い始めは慎重な導入が必要です。
また、眉間や額などの深いシワや表情じわに対しては、レチノール単体では効果が限定的な場合もあるため、美容医療との併用も検討するとよいでしょう。
このように、どちらの成分も優れた効果を持ちつつ、肌質や目的に合わせて適切に選ぶことが美しい肌への近道となります。
アゼライン酸とレチノールは併用できる?

アゼライン酸とレチノールは併用が可能な成分ですが、使い方には注意が必要です。
上記でも説明したように、レチノールは乾燥や皮剥け、赤みなどの「レチノイド反応」を引き起こすことで知られています。
一方、アゼライン酸は比較的穏やかな成分ではあるものの、レチノールと併用することで一時的に刺激感が強まることもあります。
併用のポイントとしては、例えば「アゼライン酸を朝に使い、レチノールを夜に使う」といった使用時間を分ける方法や、どちらの成分も低濃度のものを選ぶことで肌への負担を軽減できます。
何より大切なのは、自分の肌の反応をこまめに観察しながら使うことです。赤みやヒリつきが強く出るようであれば、使用を中止したり、片方のみの使用に切り替えるなど、柔軟に対応しましょう。
【注意点】アゼライン酸とレチノールが肌に合わない人もいる
アゼライン酸とレチノールは、どちらもスキンケア成分として効果が期待されますが、すべての肌質に合うとは限りません。
特に、以下のような方は使用に注意が必要です。
- 肌が極端に敏感な人
- 乾燥やバリア機能の低下が著しい人
- 過去にビタミンA製品や酸系アイテムで肌トラブルを経験した人
肌に合わない場合、赤み・ヒリつき・かゆみのような炎症などの症状が現れることがあります。
肌との相性には個人差があるため、少量から慎重に試し、違和感を覚えたらすぐに使用を中止することが大切です。
2つの成分が肌に合わない人はCBDもおすすめ
上記では、「アゼライン酸とレチノールはどちらがいいのか」ということについて解説しました。
ここでは、「CBD」という美容効果が期待されている成分についてご紹介したいと思います。
CBDとは

CBDとは、「カンナビジオール(Cannabidiol)」の略で、大麻草(ヘンプ)から抽出される天然成分です。
「大麻」と聞くと違法性や依存性を連想するかもしれませんが、CBDには精神を高揚させる作用や依存性はなく、違法成分であるTHCとは異なる安全な成分とされています。
CBDには、リラックス効果やストレスの緩和、睡眠の質の向上といった心身への穏やかな作用が期待されており、健康・美容分野で注目が高まっている成分です。
また、CBDには様々なタイプの製品があり、肌に対して利用される場合はクリームタイプやジェルタイプのCBD製品が利用されます。
CBDの肌に対する主な効果
美容効果が期待されている「CBD」という成分ですが、肌に対してはどのような効果が期待されているのでしょうか。
ここでは、CBDに期待されている4つの効果をご紹介したいと思います。
肌の保湿力をサポートする
CBDは肌の保湿力をサポートする成分として注目されています。特に乾燥が気になる肌に対して、水分の蒸発を抑えたり、水分保持力を高めたりする働きが期待されています。
2021年に発表された研究では、1%濃度のCBD溶液をマウスの皮膚に塗布したところ、水分量が約1.3倍に増加したという結果が得られました。
興味深いのは、3%濃度のCBDを使用した場合には、同様の保湿効果が確認されなかったという点です。
このことから、CBDは「高濃度ならより効果が出る」というわけではなく、適正な濃度での使用がカギになるといえるでしょう。
ニキビケア

CBDはニキビケアにおいても注目されている成分のひとつです。
ニキビは、過剰な皮脂分泌によって毛穴が詰まり、アクネ菌が繁殖し炎症を起こすことで発生するとされていますが、CBDはこのプロセスに対して働きかける可能性があります。
2014年に実施された研究では、CBDが皮脂腺の働きを抑えるとともに、炎症反応を軽減する効果があることが、細胞実験の段階で確認されました。
この知見は、CBDがニキビの原因にアプローチできる有望な成分であることを示しています。
近年では、CBDを配合した化粧品やスキンケア製品も増えており、皮脂によるトラブルや繰り返すニキビに悩む方にとって、新たな選択肢になり得るでしょう。
肌の傷跡の改善
CBDには、肌に残る傷跡を目立ちにくくする効果が期待されていることをご存知でしょうか。
実際にイタリアで実施された臨床試験では、アトピーやニキビによる瘢痕(はんこん)を抱える被験者20名を対象に、CBD配合の軟膏を1日2回・約3か月間使用してもらいました。
その結果、多くの参加者において、皮膚の傷跡が目立ちにくくなったり、改善されたという報告が得られました。
このことから、CBDは皮膚の回復プロセスを助け、肌の再生を促す可能性があると示唆されています。
肌のざらつきや古いニキビ跡が気になる方は、CBDを含むクリームやバームを日々のスキンケアに取り入れてみるのも1つの方法と言えるでしょう。
紫外線からの保護

紫外線は、しみ・そばかす・たるみなどの肌トラブルを引き起こし、老化を加速させる主な原因の1つです。
そんな中で注目されているのが、CBDの紫外線からの保護効果です。
2021年に行われた研究では、紫外線を照射した皮膚細胞にCBDを使用する実験が行われ、CBDが細胞の損傷を抑え、酸化ストレスを防ぐ作用があることが示されました。
これにより、CBDは肌の老化を食い止める一助になる可能性があると考えられています。
まとめ
アゼライン酸とレチノールは、どちらも科学的根拠に基づいた優れたスキンケア成分であり、それぞれ異なる肌悩みに対して効果を発揮します。
アゼライン酸は皮脂分泌の抑制や角化異常の改善、抗炎症作用に優れており、ニキビや肌荒れ、赤みのケアに適しています。穏やかな使用感で、敏感肌や初心者にも取り入れやすいのが特徴です。
一方レチノールは、シワやたるみ、くすみといったエイジングサインへの効果が高く、肌のハリや明るさを取り戻したい方に推奨されます。ただし、刺激が出やすいため慎重な使用が必要です。
どちらの成分も合わない場合には、近年注目されているCBDも選択肢になります。
CBDは保湿・抗炎症・肌再生のサポートなど多面的な作用を持ち、乾燥やニキビ、紫外線によるダメージなど幅広い肌悩みにアプローチできる可能性がある成分です。
肌に優しく、自然由来である点からも敏感肌の方にとって試す価値のある成分と言えるでしょう。
【参考文献】
- Relationship between sebostatic activity, tolerability and efficacy of three topical drugs to treat mild to moderate acne
- Effects of azelaic acid on proliferation and ultrastructure of mouse keratinocytes in vitro
- A Clinical Anti-Ageing Comparative Study of 0.3 and 0.5% Retinol Serums: A Clinically Controlled Trial
- Improvement of Naturally Aged Skin With Vitamin A (Retinol)
- Cannabidiol Application Increases Cutaneous Aquaporin-3 and Exerts a Skin Moisturizing Effect
- Cannabidiol exerts sebostatic and antiinflammatory effects on human sebocytes
- A therapeutic effect of cbd-enriched ointment in inflammatory skin diseases and cutaneous scars
- The Effect of Cannabidiol on UV-Induced Changes in Intracellular Signaling of 3D-Cultured Skin Keratinocytes

日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師
日本臨床カンナビノイド学会認定登録師
所属学会:日本薬理学会、日本緩和医療薬学会、日本在宅薬学会、日本臨床カンナビノイド学会