大麻とCBDの歴史(アメリカ編)

年々その力が注目され始め、少しずつ耳にする機会も増えてきたCBD。

CBDは違法ではない」「リラックス効果がある」など、その効能についてはご存知の方も多いと思います。

ところがCBDのもととなる「大麻」の歴史に関してはあまり知られていないと思います。

そこで本日は薬剤師の私が、大麻の歴史について詳しく解説していきたいと思います。

この記事でわかること・アメリカ大陸に大麻がいつ頃伝わったか
・アメリカの建国
・大麻の歴史
・医療大麻として再出発

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アメリカにおける大麻の歴史

1500年代~1600年代ごろ

アメリカ大陸での大麻の使用は、南米から始まったのではないかと言われています。1

16世紀にアフリカのアンゴラから連れてこられた奴隷によって大麻の種子がブラジルへ伝わったと考えられています。

ブラジルにおける大麻の同義語( マコンハ、リアンバ、ディアンバ等 )がアンゴラ語に由来していると言われていることからみても矛盾しません。2

その後、大麻は南米大陸からアメリカ大陸全土へと広がっていったと考えられています。

1776年7月4日

アメリカ東部の当時イギリス領であった13ヶ所の植民地から代議員が出席し、大陸会議が開かれ、満場一致で独立宣言3を採択しました。

アメリカ合衆国は現在、この日を独立記念日としています。

アメリカ合衆国独立宣言書

1783年

アメリカはすでに独立宣言を行なっていましたが、実際に独立を成し遂げていた訳ではありませんでした。

当時イギリス領であった13ヶ所の植民地はイギリス本国との間でアメリカ独立戦争を戦っていたからです。

イギリスは本国から海軍艦艇を派遣し北米沿岸部の都市を陥落させたものの、陸軍力に乏しく経戦能力(戦闘継続力)が不足していました。

その結果、1783年のパリ条約でミシシッピ川より東部をアメリカ合衆国とすること、イギリスはその独立を正式に承認することになりました。4

その後、1853年までに北米大陸が併合され、1867年にアラスカが、1898年にハワイが併合され現在に近い形となった。

1830~1840年代

1800年代初頭にはヨーロッパの医師たちが大麻の種子をホメオパシーの薬として使い始めていた記録が残っています。

しかし、西洋医学における大麻の効果的な医学への導入は以下の2名による著作が出版される1830年代まで待たねばなりませんでした。

アイルランドの医師・ウィリアン・オショーネシー(Willian B. O’Shaughnessy)と、フランスの精神科医・ジャック‐ジョゼフ モロー( Jacques-Joseph Moreau )です。

ウィリアン・オショーネシー

インドでイギリス軍に数年間勤務した際に初めて実際の大麻使用に触れました。

そこで彼は大麻に関する文献を研究したり、生薬としての大麻草を描写したりするようになりました。

さらに動物を用いた毒性評価まで行い、その結果を基に様々な病態を持つ患者にその効果を検証しました。
1839年に彼はその結果を「On the preparations of the Indian hemp, or gunjah5」としてまとめ、出版しました。

著書ではリウマチやけいれん(痙攣)、そして破傷風や狂犬病の筋けいれんに対して大麻製剤を使用して成功を収めた人体実験の結果が記述されています。

ジャック‐ジョゼフ モロー

モローはオショーネシーとは別の目的で大麻を使用しました。

彼の仕事はパリ近郊のシャラントン精神病院の医師助手として、当時の一般的な治療法であった、精神病患者が異国や遠い国へ長旅に行く際の付き添いでした。

ある付き添い旅行中に彼は、アラブ人の間でハシシ( 大麻樹脂 )の使用が非常に一般的であったこと、そしてその効果に非常に感銘を受けました。

そこで1840年頃、パリで自分自身や教え子を利用して様々な大麻製剤を体系的に実験するにしました。

1845年ついに彼は「Du Hachisch et de l’Alienation Mentale: Etudes Psychologiques(ハシシと精神的疎外について:心理学的研究)6」という本を出版しました。

この本は大麻の急性症状について最も完全に説明しているものの一つであると言われています。7

また、モローはハシシを、「精神疾患を理解する上で強力で、独特な精神機能を独自にもたらすものとして見ている」と明かしていました。8

1850年

米国薬局方にはじめて「大麻」が収載されました。

睡眠誘導作用、抗けいれん作用、抗不安作用、鎮痛作用があることを「The United States Dispensatory9」は医師に対し提案しています。

大麻に関するページは338ページに、大麻のティンクチャーに関するページは1223ページにそれぞれ記述があります。

The United States Dispensatory

1860年代

前述したオショーネシーやモローの出版物によって20年程ヨーロッパでは、その精神活性作用や臨床使用に医学的関心が向くことになりました。

特に狂犬病やコレラ、破傷風などの感染症に対する治療の選択肢が少なかった当時、大きな影響を与えました。

大麻の医薬品としての使用はイギリスとフランスからヨーロッパ全土へ広がり、その後、北米へと伝わっていきました。

その結果、1860年にオハイオ州医学会の主催により、大麻に関する最初の臨床カンファレンスアメリカで開催されました。

1880~1900年代頃

19世紀後半には大麻の臨床的価値について100を超える科学論文がヨーロッパとアメリカで発表されました。

20世紀初頭、西洋医学による大麻の臨床使用は最高潮を迎えていました。

1924年発行の「Sajous’s Analytic Cyclopedia of Practical Medicine10によれば、大麻には大きく3つの臨床適応がありました。

  • 鎮静・催眠作用:不眠症、憂鬱、躁病、舞踏病など
  • 鎮痛作用:頭痛、更年期障害、チック症、神経痛、リウマチ、痛風、歯痛など
  • その他:食欲不振などの消化器症状、コレラや赤痢といった感染症

そして驚くことに女性の性的無気力や男性のインポテンツなどへも使用していたようです。

大麻チンキ剤

当時、アメリカでは多くの医師が「大麻チンキ」を製造し、独自に販売をしていました。

その中には現在の大手製薬会社であるイーライリリー、ファイザー、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ等も含まれます。

大麻チンキ製剤-Lilly社製

チンキ剤とは、大麻草をエタノール(アルコール)又はエタノールと水の混液で浸出して製した液状の製剤のことです。

しかし、当時のチンキ剤には弱点がありました。

  • 植物由来であるために個体によって効力にばらつきが出てしまう
  • そもそも有効成分が単離されていないので含有量がわからない
  • 各社調製方法や調製時間が異なる

1910年~1950年代

大麻の衰退

1910年代に入ると大麻チンキ剤の使用は急速に衰退していきました。

これは前述した大麻チンキ剤特有の弱点以外にも原因がありました。

時を同じくして、さらに鎮痛効果の高いアスピリンやモルヒネ、鎮静剤としてバルビツール酸などが開発され、適応に競合するようになっていったのです。

禁酒法時代の突入

その後、1919年1月にアメリカでは禁酒法が施行されました。
禁酒法の背景には、増え続ける移民の日常的な飲酒に対して、アメリカのキリスト教的道徳観念を守ろうという保守派の動きや、アメリカ第一次世界大戦参戦の物資節約・生産性向上のため、また、ドイツ嫌いの風潮が強まり、ビール醸造業を潰してドイツ系市民に打撃をあたえようという声などがありました。

アルコール中毒や犯罪に対する過激な抗議活動を防ぐことも、目的のひとつでした。

(ただし禁酒法によりギャングが酒屋を経営して収入源を得て、犯罪が増加したことから禁酒法は1933年12月に廃止されました。)

大麻がアルコールの代わりに

禁酒法により禁酒を余儀なくされた人々は、大麻草の喫煙によって得られる多幸感や、陶酔効果を気に入り、大麻の人気は瞬く間に急上昇しました。

もともと大麻草は「大麻チンキ」や「バーム」にして「治療」を目的に使用されており、大麻草を「喫煙」目的に使用していたのはメキシコの移民労働者や、黒人のジャズミュージシャンでしたが、一般の人々の間でも大麻の喫煙習慣が広がり、大衆文化の主流となっていきました。

しかし、移民や黒人へのステレオタイプ(=思い込み)による人種差別や、麻薬中毒者を題材にしたプロパガンダ映画の影響、さらには政府の思惑もあり、大麻のイメージは次第に世間から悪いものへと変わっていきました。

大麻草の可能性が閉ざされる

さらに1930年代には連邦麻薬局が設置され、1937年には「マリファナ課税法」(※)が可決されました。厳しい課税により医師たちは、大麻を処方することが厳しくなりました。

※マリファナ課税法は、大麻の所持や医療目的の使用を犯罪化するものではなく、大麻製品に対して課税する法律です。政府は、大麻に税金をかけることで下記のような狙いがありました。

  • 大麻を市場から抹殺することで、林業と合成繊維業界を活性化しようとした
  • 税金を取ることで、特定の産業界に補助金を出しているのと同じ効果をねらった
  • 大麻製品の価格が上昇し、製紙原料が大麻から木材へ、繊維原料が大麻から合成繊維へ移ることで、製材業者や合成会社の設備投資ができるようになり、経済の活性化を期待した

やがて大麻草は「麻薬」と同等に分類・制限され、より厳しい法律が制定されていきました。これにより本来大麻草のもつ治療効果や、その先にある可能性までも閉ざされてしまったのです。

そこから約70年間、医師や研究者たちが何度も「大麻草は重篤な副作用がほとんどなく、アルコールよりも危険性が低い」ことを主張しましたが、規制を覆すことはなかなかできませんでした。

1964年~2000年代

ベトナム戦争の激化とともにカウンターカルチャーが台頭するようになりました。

その中で、ヒッピーと呼ばれた旧来の価値観に対抗しようとした若者の間で嗜好目的で大麻を楽しまれるようになりました。

2013年~現在

嗜好用大麻から医療用大麻としての可能性へ

医療大麻がふたたび注目を集めるようになったのは、ある1人の女の子の存在がキッカケでした。

Charlotte Figi (シャーロット・フィギー)11

シャーロット・フィギーちゃんは生後3か月の時に初めててんかん発作を起こしました。

その後、難治性てんかんであるドラベ症候群ということがわかり、一週間で最大300回ものけいれん大発作を起こし、話をするのも困難でした。

医師の処方薬による治療では効果がありませんでした。

ある日、母親のペイジは、カルフォルニアのある家族が子供のてんかん発作を、大麻から作られた油で治療したという話を耳にしました。

大麻治療に可能性を感じた両親は、最後の望みをかけて大麻の研究を始めました。
スタンレイ兄弟という大麻農家と出会い、ハイになる成分 THCがほとんど含まれていない、CBDの多く含まれた大麻を紹介してもらいました。

その紹介された大麻を用いて両親は自家製のオイルを作り、シャーロットちゃんに与えました。

すると発作はみるみる減少し、シャーロットちゃんの命を繋げることに成功したのです。

歩いたり話したりする事が困難で、食事も栄養チューブが必要で、6歳まで生きられないかもしれないと言われていた彼女が、CBDオイルの摂取を始めてからは抗てんかん薬による強い副作用から解放され、すぐに歩けるようになり、遊んだり自分で食事ができるようになりました。

CBDで医療大麻の流れが変わる

 シャーロットちゃんの劇的な回復により、医療大麻の流れが大きく変わりはじめました。

2013年、テレビ局大手のCNNのドキュメンタリー番組「WEED」にシャーロットちゃんが取り上げられました。

それを視聴していた、てんかんの子供を持つ親達が医療用大麻解放のために立ち上がり、医療用大麻合法化運動を各州に広げていきました。それにより医療用大麻や嗜好用大麻の合法化する州がどんどん増えていきました。

2022年10月には、ジョー・バイデン大統領が連邦法の下で大麻の単純使用で有罪判決を受けた何千人もの人々に恩赦を与え、大麻を最も危険や薬物として分類している現行法の見直しを検討すると発表しました。

2023年8月時点で、医療用大麻が合法になっている州が40州+ワシントンD.C、嗜好用大麻が合法の州が23州+ワシントンD.Cとなっています。
医療用大麻がまだ違法な州であるワイオミング州は最も人口が少なく58万人で、一方医療用大麻を初めてアメリカで解禁したカルフォルニア州の人口は3954万人です。

嗜好用か医療用かに関わらず、大麻を合法化している州の数と人口が徐々に増えてきています。

※最後に、アメリカ合衆国は現在、州単位で大麻を合法化していますが、連邦政府は違法としています。これはアメリカ合衆国が国としては大麻を違法としている点に注意してください。

参考文献

  1. Antonio Waldo Zuardi. History of cannabis as a medicine: a review. Brazilian Journal of Psychiatry. 2006;28:153-157. doi: 10.1590/s1516-44462006000200015. ↩︎
  2. Pinho AR. Social and medical aspects of the use of cannabis in Brazil. In: Rubin V, eds. Cannabis and culture. Paris: Mounton Publishers; 1975;293-302. doi: 10.1515/9783110812060.293 ↩︎
  3. In Congress, July 4, 1776. The unanimous declaration of the thirteen United States of America. ↩︎
  4. The Paris Peace Treaty of September 3, 1783 ↩︎
  5. Willian B. O’Shaughnessy. On the Preparations of the Indian Hemp, or Gunjah. Provincial Medical Journal. 1843;5:363-369. ↩︎
  6. Du Hachisch et de l’Alienation Mentale: Etudes Psychologiques ↩︎
  7. Brill H, Nahas GG. Cannabis intoxication and mental illness. In: Nahas GG, eds. Marihuana in science and medicine. New York: Raven Press. 1984;263-306. ↩︎
  8. Moreau, Jacques Joseph. Du hachisch et de l’aliénation mentale: études psychologiques. Fortin, Masson, 1845. (English edition: New York, Raven Press; 1972). ↩︎
  9. The dispensatory of the United States of America 1854 ↩︎
  10.  Aldrich M. History of therapeutic cannabis. In: Mathre ML, eds. Cannabis in medical practice. Jefferson, NC: Mc Farland; 1997; 35-55. ↩︎
  11. HEMP TODAY JAPAN ↩︎
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