この記事では薬物相互作用・副作用・新たな適応領域に関する最先端エビデンスを専門的に解説します。
近年、カンナビジオール(CBD)の医療利用に関するエビデンスが急速に蓄積されており、薬剤師は、その薬理学的特性や臨床応用、安全性に関する最新情報を正確に把握することが求められています。
そこで、2024年にPubMedで掲載されたCBD関連の論文の中から、以下の観点に基づいて特に注目すべき5本を厳選し、専門的な見地から徹底解説します。
なお、本記事は薬剤師である私、荒川快生が執筆し、医療専門家の監修を受けた内容です。
CBDと医薬品の薬物相互作用に関するシステマティックレビュー
Nachnani R, Knehans A, Neighbors JD, et al. Systematic review of drug-drug interactions of delta-9-tetrahydrocannabinol, cannabidiol, and Cannabis. Front Pharmacol. 2024;15:1282831.

研究概要
医療用・娯楽用の大麻使用増加を背景に、主要成分であるCBD(カンナビジオール)と処方薬との薬物相互作用について、2019年以前を含む文献を系統的にレビューした研究です。
特にワルファリンなど治療域の狭い薬剤(NTI: narrow therapeutic index)との相互作用報告に注目し、臨床上問題となりうる組み合わせを調査しています。
結論
カンナビノイド(CBDやTHC)がワルファリン、バルプロ酸、タクロリムス、シロリムスなどと相互作用し、薬物の代謝や血中濃度に影響を与えた事例が多数報告されました。
具体的な副作用例として、ワルファリンとの併用で出血リスク増大、鎮静剤との併用で意識障害、麻酔導入困難、消化器症状悪化などが挙げられています。
相互作用の多くはCBD/THCが肝代謝酵素(CYP3A4やCYP2C9等)を阻害することに起因すると考えられ、薬物血中濃度の予期せぬ上昇が58%のケースで認められました。
本レビューでは、特に治療域の狭い薬剤を服用中の患者ではCBD使用について医療従事者と患者が率直に情報共有すべきと強調しています。
エビデンスの強さ
31件の報告(症例報告や臨床研究を含む)を対象にしたシステマティックレビューであり、網羅的かつ系統的にデータを集めています。
個々の報告は症例ベースのものも多いが、レビュー全体としてエビデンスの信頼性は比較的高く、実臨床で注意すべき相互作用の傾向を示しています。
薬剤師業務への関与
日本においてもCBD含有製品を利用する患者が増える可能性があり、薬剤師は調剤時に患者のCBD使用を必ず確認する習慣を持つことが重要です。
特にワルファリンなどの抗凝固薬や、抗てんかん薬、免疫抑制剤等を調剤する際は、CBDとの相互作用で重篤な副作用(例:出血や過鎮静)が起こり得ることを念頭に置き、必要に応じて医師へ情報提供したり患者へ注意喚起することが求められます。
また、市販のサプリメントであっても薬物相互作用のリスクを説明し、「天然由来でも相互作用は起こる」ことを服薬指導で強調すべきです。
CBD製品の副作用と安全性(THCの混入による影響)に関する製品分析研究

研究概要
市販されているCBD製品の副作用報告の原因を探るため、ドイツ市場のCBDオイルなど413製品を分析した研究です。
CBDが胃内で変換してTHC様作用を示すとの仮説や、製品中のΔ9-THC(テトラヒドロカンナビノール)の残留が副作用の原因ではないか検証し、製品の純度・規制適合性も評価しています。
結論
分析対象の12%(48製品)で、1日あたり2.5mgを超えるTHCが検出されました。
これは観察された最小の有害作用量(LOAEL)を超える含有量であり、一部製品の副作用(めまい、鎮静など)はCBDそのものではなく微量のTHC混入による作用と考えられます。
また調査した全製品が何らかの形で欧州の食品規制に適合しておらず、ラベル表示と実際の含有量の不一致、未承認成分の使用、THCの濃度規制超過など品質管理上の問題が顕在化しました。
著者らは、現状のようにメーカーの自主性に任せた状況では安全性確保が困難であり、ヘンプ由来製品に対する強力な規制枠組みが必要と提言しています。
なお、純粋なCBD自体の長期安全性については依然不明な点が多く、肝毒性や生殖毒性の可能性など懸念が残ると指摘されています。
エビデンスの強さ
実際の市場製品を多数検査した信頼性の高いデータで、CBD製品の品質と潜在的危険性を客観的に示しています。
ただし臨床試験ではなく製品分析研究のため、副作用との因果関係は推定に留まります。
しかし規制の不備や製品ばらつきに関する知見はエビデンスとして重要です。
薬剤師業務への関与
日本でもインターネット等で輸入CBD製品を入手するケースがありますが、製品にTHC等が混入しているリスクを薬剤師は認識しておく必要があります。
患者から「CBDだから安全」と相談を受けた場合でも、実際には規制が緩い製品では予期せぬ成分が含まれ副作用を起こし得ること、品質にばらつきがあることを説明し注意を促すべきです。
また日本の法規ではTHCは厳禁であるため、THCフリーが保証された製品の選択する重要性も指導に含める必要があります。
薬剤師は最新の規制動向を把握するとともに、安全性が担保された製剤(例えば医薬品として承認されたEpidiolexなど)が適切に使われるよう、自主的な市販製品の乱用を防ぐ役割が期待されます。
CBDの長期使用による肝障害リスクに関するナラティブレビュー

研究の概要
CBD使用に伴う肝酵素上昇や薬物性肝障害(DILI)のエビデンスをまとめ、臨床での対処法ガイダンスを提案した総説です。
小児難治性てんかんの治療薬Epidiolex®(高純度CBD)で報告された肝障害データや症例報告をもとに、CBDによる肝毒性の頻度と重篤度を評価し、診断・管理の指針を述べています。
結論
本レビューによれば、高用量CBD(1000 mg超/day)の摂取が肝酵素上昇および薬物性肝障害(DILI)の有意なリスク因子であると述べています。
具体的には、肝酵素上昇症例の約77%、DILI症例の約89%が1000 mg/day超のCBD摂取量で生じていたと報告されています。
反対に、低用量のCBD(<300 mg/day)では有意な肝障害が報告されておらず、中等量(300〜999 mg/day)での症例数は稀でした。
また、一部の研究では非常に高用量(CBD1500 mg超/day)であっても肝酵素の上昇が認められなかった例があり、高用量による肝障害リスクには個人差や特異体質的(idiosyncratic)要因が関与する可能性が示唆されています。
CBDを高用量(1000mg超/day) 摂取により、肝酵素上昇や肝障害(DILI)が生じるケースが増えており、その発生頻度はCIOMS分類で“common(一般的)”に相当するとされています。
*CIOMS分類: 副作用の頻度を表す国際的な基準の一つ
CIOMS分類(英語) | 日本語表記 | 発生頻度 |
---|
Very common | 頻繁 | ≥10% |
Common | 時々、一般的 | ≥1% and <10% |
Uncommon | ときに | ≥0.1% and <1% |
Rare | まれ | ≥0.01% and <0.1% |
Very rare | 非常にまれ | <0.01% |
しかし現状では多くの臨床医がこのリスクを十分認識しておらず、CBDに起因する肝障害が見逃されている可能性があります。
著者らは、原因不明の肝酵素上昇例ではCBDの使用の有無を必ず確認し、鑑別診断に組み入れるべきと提言しています。
本レビューでは予防(投与量や併用薬に注意)、発見(定期的な肝機能モニタリング)、対応(異常発生時のCBDの中止や専門医への紹介)について具体的な指導案が示されています。
エビデンスの強さ
系統的レビューではなくナラティブ(叙述的)レビューですが、Epidiolexの臨床試験データや症例集積など信頼性の高い情報源に基づいています。
小児てんかん治療での高用量CBD使用時に最大20%近い患者で肝酵素上昇が見られたとの報告もあり、エビデンスとして無視できません。
専門家の見解を含むガイダンスではありますが、内容は現在得られている科学的知見に裏付けられています。
薬剤師業務への関与
日本でも今後CBD製剤が医療現場で用いられる可能性があるため、薬剤師はCBDによる肝障害リスクを把握し、適切にモニタリングを行う役割を果たす必要があります。
例えば処方薬のEpidiolex(未承認ですが、現在治験中)や市販CBDオイルを継続服用している患者には、定期的な肝機能検査の重要性を伝えるべきです。
また、バルプロ酸など他の肝毒性薬との併用ではリスクが高まる可能性があるため(*先行研究より)、そのような併用を見つけた際は医師と相談し投与量調整や代替案を検討する必要があります。
副作用モニターとして、患者に黄疸や倦怠感など肝障害症状が出た場合に速やかに受診するよう指導することも求められます。
CBDの疼痛緩和効果に対するエビデンス評価

研究概要
慢性疼痛に対するCBDの有効性と安全性を検証した総説論文です。
北米・欧州の市販CBD製品の実態(含有量のばらつきや混入物質)調査、痛みを対象とした臨床試験結果のレビュー(RCT16件の分析)、副作用のメタ分析、さらに規制当局(FDA)の見解も踏まえて総合的に評価しています。
結論
慢性疼痛に対するCBD単剤の効果はプラセボと差がないことが明確になりました。
分析した16件のランダム化比較試験のうち15件でCBDはプラセボ以上の疼痛軽減を示せず、有効性に一貫した裏付けがないと結論づけています。
一方、安全性面では、小規模試験では概ね良好とされるものの、大規模データではCBD使用者に重篤な有害事象や肝障害の発生率増加が示唆されていると指摘しています。
さらに市販品の多くはCBD含有量が表示と一致しなかったり有害な不純物(例:重金属など)を含むことが報告されており、安全性と有効性の両面で問題があると警鐘を鳴らしています。
総括として「現時点のエビデンスでは、市販CBDは高価な割に痛みに効果はなく、むしろ有害性の懸念がある」と結論づけられました。
米国FDAも2023年に「現行の食品・サプリ枠組みではCBD製品を安全に規制できない」と表明し、新たな法的枠組みの必要性を訴えています。
エビデンスの強さ
権威ある疼痛学会誌に掲載されたレビューで、RCTの結果やメタ分析に基づく結論であるため信頼性は極めて高いです。
著者には疼痛治療の専門家がおり、分析手法も適切です。
市販製品の分析データも含まれ、臨床試験と実市場の両面から評価している点で総合的なエビデンスと言えます。
薬剤師業務への関与
「CBDは痛みに効く」といった一般のイメージに対し、薬剤師は最新エビデンスを踏まえて科学的に助言する必要があります。
処方薬やOTCの相談で患者が疼痛管理目的にCBDオイル等を試したいと言った場合、現状有効性が証明されていないこと、プラセボ効果以上の期待はできないことを丁寧に説明すべきです。
加えて、「天然成分なので副作用がない」と誤解している患者には、肝障害を含む重大な副作用リスクが報告されている事実や、製品によっては違法成分が混入している可能性もあることを伝え、安全性にも注意喚起が必要です。
日本ではCBD製品は規制下にありますが、今後もし医療用途で使用が検討される場合でも、この論文の知見から十分な効果が得られない可能性を医療者間で共有し、漫然と使用を推奨しない姿勢が求められます。
CBDの新たな治療適応ー自閉スペクトラム症への効果ー

研究概要
自閉スペクトラム症(ASD)児童に対するCBDの有用性を検討した二重盲検プラセボ対照試験です。
5~11歳のASD児60名を対象に12週間の治療群(CBD高濃度配合大麻抽出物投与群)とプラセボ群にランダム割付し、社会的相互作用や不安、興奮などASDの中核症状・周辺症状の変化と安全性を評価しました。
結論
CBD投与群はプラセボ群に比べて社会的相互作用のスコアが有意に改善しました。
加えて、不安や多動といった共存症状のいくつかも有意な改善が認められました。
副作用については、CBD群の児童のうちわずか3名(約10%)にめまい、不眠、腹痛、体重増加など軽度な症状が認められたのみで、重篤な副作用は報告されませんでした。
結論として、CBD高含有エキスはASD児の核心的症状(社会的相互作用の障害)を改善し、重大な安全性の懸念も認められませんでした。
エビデンスの強さ
プラセボ対照のランダム化試験であり、エビデンスレベルは高いです。
対象人数60名と規模は中程度ですが、統計的に有意な差を示しており、ASDに対するCBDの効果を示した初めての比較試験の一つとして貴重です。
今後さらに大規模な追試が望まれますが、本試験の結果は新規適応の可能性を裏付ける有力なエビデンスです。
薬剤師業務への関与
CBDの適応はてんかん以外にも拡大しつつあり、本研究はASDに対する行動改善効果という新たな可能性を示しました。
日本の薬剤師も、海外の最新動向としてCBDが発達障害の分野で研究されていることを知っておくべきです。
現時点でASD治療にCBD製剤を用いることは日本では想定されませんが、保護者から相談を受けた際にはエビデンスの存在と限界(「一定の効果が報告されているが、まだ研究段階であり安易な使用は推奨されない」こと)を説明できると望ましいでしょう。
将来的にエビデンスが蓄積しCBD製剤の適応拡大や承認につながれば、調剤や服薬指導で発達障害患者に関わる薬剤師の役割はさらに重要になります。
現段階では、ASDの小児へのCBDによる治療実績は、難治性てんかんの小児へのCBD治療に比べてデータの蓄積がありません。
小児の難治性てんかん患者における副作用としては主に、肝機能異常などの有害事象以外では薬物との相互作用に注意する必要があると考えられます。
そのため、摂取にあたっては慎重に行うべきあり、最新知見として注目しておく価値のある情報だと感じています。
カンナビノイド医療患者会のご紹介
カンナビノイド医療患者会(PCAT)は、標準治療のみでは治療が難しい難治性疾患を持つ患者さんと、そのご家族、医療従事者でつくる非営利団体で、大麻草(たいまそう)から採取されるカンナビノイドという成分を使った製品(例えばCBDオイルなど)を治療に役立てることに目的としています。
CBDは大麻草に含まれる成分の一つですが、人を興奮させたり酔わせたりする作用(陶酔作用)がなく、てんかん発作を抑えるなど体の症状を和らげる目的で世界的に注目されています。
PCATは、こうしたカンナビノイド製品を必要とする患者さんが安心して利用できる環境を守り、広げていくことを目指しています。
PCATの活動目的
PCATが特に重視している目的は、次の2つです。
- 患者がカンナビノイド製品を手頃な価格で継続利用できるようにすること。
症状を和らげるためにCBDなどを使い続けたい患者さんが、金銭的負担を和らげ長く使い続けられるように支援することです。
薬やサプリメントは高価なため、途中でやめざるを得ない場合もありますが、PCATではそうならないように、安定した供給の仕組みを守ろうとしています。 - カンナビノイドを使った医療を日本国内で発展させ、より多くの人が利用できるようにすること。
まだ日本ではカンナビノイド医療は新しい分野ですが、PCATはその有用性を社会や医療関係者に伝えたり、必要な制度の整備を働きかけたりしています。
より多くの患者さんがこの新しい選択肢を試せるよう、治療法の普及や研究の促進を目指しています。
カンナビノイド医療患者会(PCAT)への入会により、日本におけるカンナビノイド医療の第一人者である正高医師から助言を得ることができます。

正高佑志 先生
入会費等はかかりません。
原価供給プログラム「みどりのわ」プロジェクト
「みどりのわ」は他の治療法で十分な効果が得られない患者に対し、安全なCBD製品を安価に提供し、その有効性と安全性を科学的に評価・報告することを目的としています。
対象となる患者は、主に標準治療で効果不十分な難治性てんかんのほか、悪性腫瘍やその他の難治性疾患(個別審査)に及びます。
当初はてんかん患者さんに特化していましたが、有効性が確認できた症例が増えたことを受け(従来の治療法では得られなかった効果が現れ)、現在ではがん患者さんなどからの相談にも対応すべく対象疾患が拡大されました。
こうした患者さんに必要な情報提供や製品供給を行いつつ、将来的には医療用大麻製品が必要な患者に適切に届く仕組み作りを目指しています。
プログラム参加者には主治医の関与のもとで使用して頂くことで、医療専門職の管理下での適正使用を図っており、薬機法の趣旨に沿った安全な運用に努めています。
私が薬剤師として、CBD原料や工場などの安全性にこだわって製品化したCBD100㎎カプセルも現在ご利用いただいております。
まとめ
今回ご紹介した5本の論文は、CBDの薬物動態、相互作用、安全性、および新たな治療適応に関する最新かつ専門的な知見を提供しています。
- CBDと他薬との相互作用については、特にCYP酵素阻害の影響を把握し、処方時の用量調整が必須となる点。
- 市販製品の品質管理とTHC混入問題は、患者指導や安全管理に直結する重要な情報です。
- 長期使用による肝障害リスクは、定期検査の重要性と薬剤師としてのモニタリング体制の構築に寄与します。
- 慢性疼痛治療におけるエビデンス評価は、「天然成分=有効」との誤解を解く根拠として、服薬指導に活用可能です。
- 最後に、自閉スペクトラム症への応用は、今後の新たな治療選択肢として注目すべき領域であり、研究動向のフォローが求められます。
薬剤師として、最新のエビデンスを基にCBD製品の適正使用を推進し、患者の安全性確保と効果的な服薬指導を実践することは、今後の医療現場において非常に重要です。
PubMedなどのデータベースを定期的に確認し、最新情報のアップデートを怠らないようにする必要があります。