近年、リラクゼーション・ストレス緩和などの効果から注目を集めている「CBD」。
そんな「CBD」ですが、「妊娠中や授乳中に利用しても大丈夫なの?」と疑問を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、「CBDは妊婦が摂取しても問題ないか」ということや、「CBDを授乳中に利用しても問題ないか」ということを解説したいと思います。
CBDが胎児に与える影響に関しても、実際の研究を基に解説しているので、気になった方はぜひ最後までご覧ください。
そもそもCBDとは?
CBDとは、「カンナビジオール(Cannabidiol)」という成分の略称です。これは大麻草に含まれている「カンナビノイド」と呼ばれる天然化合物の一種です。
ここでは、CBDの違法性や安全性、期待されている効果について解説していきます。
CBDの違法性と安全性

CBDが大麻由来であるという点から、「違法ではないか?」・「体に害はないのか?」と不安に思う方も少なくありません。
まず法的な側面から見ると、CBDは日本国内でも合法であり、所持や使用が法律に抵触することはありません。
続いて安全性についてですが、2011年に行われた研究では、CBDを摂取した被験者において重篤な副作用は確認されなかったことが報告されています。
さらに、WHO(世界保健機関)もCBDの安全性と忍容性(体に負担が少ないこと)を評価しており、国際的にも高い信頼性がある成分とされています。
CBDに期待される効果
これまでの研究を通じて、CBDには以下のような効果が報告されています。
- 睡眠の質を高めるサポート
- 不安や緊張の緩和
- 抗炎症・抗酸化作用
- 鎮痛・鎮静効果
- 抗菌作用
- ストレスの軽減
これらの作用から、CBDは「健康維持」や「セルフケア」の目的で、世界中でサプリメントやオイルとして利用されています。
さらに医療の分野でも注目されており、海外では「エピディオレックス(Epidiolex)」というCBDを含む医薬品が、難治性てんかんの治療薬として承認・使用されています。
CBDは妊婦が利用しても大丈夫?
ここでは、「妊婦がCBDを利用しても大丈夫なのか」ということを解説したいと思います。
妊婦のCBD利用は推奨されていない

CBDは吐き気の緩和や不眠、不安の軽減に効果が期待されており、つわりなどで悩む妊婦の中には、少しでも症状を和らげたいとCBDの使用を検討する人もいるかもしれません。
しかし、妊娠中にCBDを使用することの安全性については、現時点で十分な研究データがありません。このため複数の公的機関が、妊婦のCBDの使用に対して警告や注意喚起を行っています。
例えば、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、妊娠中の女性に対し、CBDの使用を避けるよう警告を出しています。
さらに、カナダ保健省もCBDが胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性があるとして、妊娠中、妊娠を考えている人には使用しないよう強く勧告しています。
利用しても問題ないという意見もある
妊娠中のCBD使用に関しては、「避けたほうがよい」という慎重な意見が多く見られる一方で、すべての専門家が一様に反対しているわけではありません。
例えば、CBDに詳しい医師・正高佑志先生は、ご自身のYouTubeチャンネルにて、「CBDが胎児に大きな悪影響を与える可能性は低いのではないか」との見解を示しています。
また、外用(肌に塗る)CBDに関しては、血中への吸収がごくわずかで胎児への影響はほとんどないと考えられるため、「あまり心配しなくてもよいのでは」とも述べています。
個人的には積極的な利用はおすすめしない
妊婦の身体は非常にデリケートであり、たとえ安全性が高いとされる医薬品であっても、使用の可否は慎重に判断されます。
実際、多くの医師は胎児や乳児へのリスクを避けるため、こうした時期の薬剤使用に対しては控えめな対応をとる傾向にあります。
これは、妊婦や授乳中の方を対象とした臨床試験が倫理的・安全性の観点から難しく、明確なデータが乏しいためです。
CBDについても同様で、一般には安全性が高いとされるものの、上記で説明したように妊娠中における影響については科学的な根拠が十分に蓄積されていません。
こうした背景から、私個人としては、妊娠中のCBD使用は避けるべきだと考えています。
症状の緩和を望む気持ちは理解できますが、まずは医師とよく相談し、安全性が確認された方法で対処することをおすすめします。
【研究を基に解説】CBDが胎児に与える影響
上記でも述べたように、妊娠中におけるCBDの影響については、現時点で人間を対象とした十分な科学的根拠が存在しません。
しかし、動物を用いた研究はいくつか行われており、それらから一定の示唆を得ることができます。
ここでは、CBDを妊娠中に利用すると胎児にどのような影響を及ぼす可能性があるのかについて、動物実験をもとに解説します。
脳発達に対する影響

2022年の研究では、CBDが母体から胎児へ、さらに胎児の脳内にまで移行することが確認されました。特に注目されたのは、胎児期の脳の発達過程への影響です。
研究結果によると、CBDはマウスの胎児の神経幹細胞の増殖を促進する一方で、大脳皮質の第IV層に存在するニューロンの数を減少させることが明らかになりました。
これは、脳の層構造の形成に異常が生じる可能性を示唆しています。
この研究結果は、妊娠中のCBD使用が胎児の脳発達に影響を及ぼす可能性があるという、警鐘を鳴らすものとなりました。
生殖機能に対する影響
1986年に発表されたある研究では、妊娠中または出産直後にカンナビノイドに曝露された母マウスから生まれた雄の子孫の生殖機能について調査が行われました。
この研究では、母マウスにCBD、CBN、またはTHCを投与し、その後に生まれた雄の子マウスの精子数や生殖能力を評価しました。
研究の結果、CBDやCBNを投与された母親から生まれた雄マウスでは、精子数が約20%減少していたことが明らかになりました。
この研究は、妊娠中のCBDなどのカンナビノイド成分の利用が、男性の生殖能力にまで影響を与える可能性を示唆しています。
心機能に対する影響

2024年の研究では、妊娠中のCBD摂取が生まれてくる子の心臓機能にどのような影響を与えるかについて調査が行われました。
この研究では、妊娠中のラットに毎日CBD(3mg/kgまたは30mg/kg)を投与し、産まれた子ラットの心機能を生後21日目に評価しました。
その結果、CBDを投与された母親から生まれた雄の仔ラットでのみ、心臓機能の低下が確認されました。
この研究は、妊娠中に摂取することで出生後の子の心臓に早期の機能異常を引き起こすリスクがあることを、性別の違いを含めて初めて示したものとなります。
血糖調節機能に対する影響
2023年の研究では、妊娠したラットに3mg/kgのCBDを毎日投与し、その子ども(特に雄)への影響を出生後3か月まで観察しました。
その結果、膵臓のβ細胞やα細胞の数には変化がなかったものの、CBD曝露を受けた雄の子どもには耐糖能障害(血糖をうまく調整できない状態)が確認されました。
さらに、肝臓の遺伝子発現を解析したところ、体内時計に関与する遺伝子や、代謝に関連する遺伝子の異常な動きが見られ、CBDの影響と関連している可能性が示唆されました。
つまり、妊娠中のCBD摂取は、直接的な奇形などが見られなくても、健康に悪影響を及ぼすリスクがあるということが言えます。
CBDを授乳中に利用しても大丈夫?

授乳中にCBDを使用することについては、現時点では明確な安全性が確認されていないため、医学的にも推奨されていません。
母乳を通して赤ちゃんに移行するCBDの量はごくわずかであり、実際に血中に取り込まれる量は微量にとどまるとする意見もあります。
しかし、それでも新生児の成長や神経発達に影響を与える可能性を完全に否定することはできません。
実際に、アメリカ食品医薬品局(FDA)も授乳中の女性に対し、CBDの使用を避けるよう警告を出しています。
ヘンプオイルは妊娠・授乳中に利用できる
「ヘンプオイル(=ヘンプシードオイル)」とは、麻の種子から抽出されるオイルのことで、CBDやTHCといったカンナビノイド成分は含まれていません。
CBDやTHCが含まれていない、この製品であれば妊娠中・授乳中の摂取も問題ないとされています。
また、ヘンプオイルには、必須脂肪酸(オメガ3・6)、ビタミン、ミネラルなど、胎児の成長に役立つ栄養素が豊富に含まれています。
ただし、注意点として「ヘンプオイル」と表記されている製品の中には、CBDやTHCが微量に含まれていることもあります。そのため、ラベルに記載された成分をよく確認することが大切です。
特に妊娠中や授乳期に使用する場合は、信頼できるメーカーかどうかをチェックしたうえで、CBDやTHCが含まれていないことを明記している製品を選ぶようにしましょう。
まとめ
CBDは、大麻草に含まれるカンナビノイドの一種であり、日本では合法とされ、安全性についても一定の評価がなされています。
しかし、妊娠中や授乳中のCBD使用については、現時点で十分な科学的根拠がなく、多くの公的機関や専門家が使用を控えるよう推奨しています。
また、授乳中についても新生児の成長や神経発達に影響を与える可能性を完全に否定することはできないため、使用は推奨されていません。
一方で、「ヘンプオイル」はCBDやTHCを含まないため、栄養補助として妊娠中や授乳中でも安心して利用できるとされています。
妊娠・授乳期は特にデリケートな時期のため、CBD製品の使用はおすすめできませんが、もし使用を検討する際は、必ず医師に相談しましょう。
CBD薬剤師の質問コーナー
妊娠中に大麻(THC)を使用すると、赤ちゃんの脳にどんな影響がありますか?
大麻の主成分THCは、胎児の脳の発達に影響を与える可能性があります。
胎児の脳にはCB1受容体という「神経の成長やつながりを助ける場所」があり、そこには本来、体内で自然につくられる「内因性カンナビノイド」という物質が働きかけています。
ところがTHCを摂取すると、そのCB1受容体に内因性カンナビノイドではなくTHCが結合し、正常な信号のやりとりが妨げられてしまいます。
さらに、THCが検出された胎児の脳を調べた研究では、「SCG10」という神経細胞の成長を助けるタンパク質が少ないことがわかりました。これにより、脳の神経細胞が正常な形や向きで発達しない可能性があるとされています。
ただし、この研究結果はあくまで仮説の段階であり、THCの影響については今後の研究が必要です。いずれにせよ、妊娠中の大麻使用は赤ちゃんの脳に悪影響を及ぼすリスクがあるため、避けることが強く勧められます。
CBDは子どもや未成年に悪影響を与える可能性があるのでしょうか?
CBDの研究の多くは成人を対象としたものであり、子どもや未成年への影響については、十分なデータが揃っていないのが現状です。
未成年者がCBDを大量に摂取した場合、成人では見られない副作用が現れる可能性も否定できません。
そのため、子どもや未成年にCBDを使用する際は、必ず医師や薬剤師に相談のうえ、適切な指導を受けながら使用することが重要です。
ただし、米国では1歳以上の小児にもエピディオレックスが使用されており、CBDの小児に対する有効性と安全性が一定程度確認されています。
こうした事例から、CBDが子どもにとって悪影響を与えるかどうかはまだ明確ではないものの、特定の症状に対しては有益である可能性が高いと考えられています。
【参考文献】
- Safety and side effects of cannabidiol, a Cannabis sativa constituent
- 妊娠中の Cannabidiol使用が胎児の神経発生に及ぼす影響
- Maternal cannabinoid exposure. Effects on spermatogenesis in male offspring
- Cannabidiol Exposure During Gestation Leads to Adverse Cardiac Outcomes Early in Postnatal Life in Male Rat Offspring
- Gestational exposure to cannabidiol leads to glucose intolerance in 3-month-old male offspring
- Molecular model of cannabis sensitivity in developing neuronal circuits


日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師
日本臨床カンナビノイド学会認定登録師
所属学会:日本薬理学会、日本緩和医療薬学会、日本在宅薬学会、日本臨床カンナビノイド学会