新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の猛威が収束を見せ、「5類感染症」に指定されてから既に1年以上が経過しました。
しかし、現在も新型コロナウイルス感染症の「後遺症」に頭を悩ませている方が、日本を含め世界中で見受けられます。
今回は、そんな新型コロナウイルス感染症の「後遺症」に対して大麻由来の成分である「CBD」は効果があるのかということを解説したいと思います。
また、現在X(旧Twitter)・Instagramにて、CBDを含む大麻成分に関する情報をエビデンスを基に発信しているので、気になった方は是非チェックしてみてください!
そもそもCBDとは?
CBDとは、「Cannabidiol(カンナビジオール)」の略で、大麻に100種類以上含まれる「カンナビノイド」という成分の1つです。
CBDが大麻に含まれる成分であることから、安全性や違法性について疑問を感じる方もいるかもしれませんが、CBDには危険性や違法性が無いことが明らかになっています。
実際に、CBDの安全性の高さは「WHO(世界保健機関)」によって認められており、大麻取締法でも違法性がないことが示唆されています。
また、CBDは過去の研究から、
- 睡眠の質の改善
- 鎮痛作用
- 抗炎症作用
- 抗不安作用
- 抗てんかん作用
などの複数の効果が期待されており、海外の一部の地域では医薬品としても利用されています。
近年、CBDに対する研究は世界中で行われており、美容・健康など幅広い分野で活用が期待されています。
新型コロナウイルス感染症の後遺症って何?
新型コロナウイルス感染症の後遺症とは、罹患後に感染性が消失したにもかかわらず、「新たに又は、継続して症状がある」ことを指します。
世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染症の後遺症を以下のように定義しています。
- 「新型コロナウイルスに罹患した人にみられ、少なくとも2ヶ月以上持続し、また他疾患による症状として説明がつかないもの」
ここでは、新型コロナウイルス感染症の後遺症について「代表的な症状や持続期間」や「発症率」を解説したいと思いますので気になった方はぜひチェックしてみてください。
後遺症の代表的な症状や持続期間
新型コロナウイルス感染症の後遺症には、主に以下の症状が挙げられます。
- 倦怠感
- 疲労感
- 筋肉痛
- 発熱・微熱
- 喀痰
- 胸痛
- 不安
- 頭痛
- 抑うつ
- 嗅覚障害
- 味覚障害 など
特に、オミクロン株では「咳」や「倦怠感」が、デルタ株以前では「嗅覚障害」や「味覚障害」の症状が多いことが過去の調査から明らかになっています。
また、時間の経過とともに症状が消失することも分かっていますが、新型コロナと診断されてから12ヶ月たった後でも、全体の30%に何らかの症状が残っていることも明らかになっています。
後遺症の発症率
上記では、後遺症の「代表的な症状や持続期間」を解説しましたが、そもそも後遺症の発症率はどれくらいでしょうか?
結論から言うと、これまでの研究結果から、世界的には後遺症の発症率は約10〜20%であると言われています。
実際に、厚生労働省が19万5000人を対象に行った調査でも、「11.7〜23.4%」の成人が後遺症の症状があると回答したことが明らかになっています。
ちなみに、この調査では「感染前にワクチンを接種した人」は「接種していない人」と比べて、症状が続いた人の割合が約25%から55%低かったということも解っています。
新型コロナウイルス感染症の後遺症のメカニズム
最近の研究によれば、新型コロナウイルスは神経細胞への指向性(向かいやすい性質)と神経侵襲性(神経細胞を攻撃しやすい性質)を持つことがわかってきました。
上記2つの性質が脳細胞を保護する「門番」とも言われる、血液脳関門(Blood-Brain Barrier, BBB)を破壊し、新型コロナウイルスが脳組織へ侵入すると以下の状態を引き起こすと言われています。
- ミクログリアの活性化
- 脳神経細胞の低酸素状態による酸化ストレス
- 血液の過凝固・血栓症
- 腸内細菌叢の異常
- ミスフォールドタンパク質の異常
- 神経学的な自己免疫反応を含む炎症反応
これらが軽度の神経症状や頭痛から、嗅覚障害や脳卒中、脳炎、血液の過凝固、出血性病変といった重症疾患までを引き起こす原因と考えられています。
なかでも神経学的な症状(疲労、ブレインフォグ、頭痛、眠気、認知機能障害、嗅覚・臭覚障害、気分障害等)は新型コロナウイルス感染症による後遺症の主要な合併症と言われています。
CBDは新型コロナウイルス感染症の後遺症に効果がある?
ここまでの説明から、「CBD」と「新型コロナウイルス感染症の後遺症」がどういったものかということが解っていただけたと思います。
では、CBDは新型コロナウイルス感染症の後遺症にも効果があるのでしょうか?
ここでは、「CBDは新型コロナの後遺症に効果があるのか」ということを解説したいと思います。
CBDの効果は完全には明らかになっていない
結論から言うと、CBDを用いた新型コロナの後遺症に対する直接的な研究は少なく、効果があるかは完全には明らかになっていません。
ただ、2024年に発表された研究によれば、CBDが新型コロナウイルスにより引き起こされる神経細胞の「酸化ストレス」や「炎症反応」を抑制することで、後遺症を緩和するのではないかと考えられています。
また、CBDは過去の研究から、「頭痛」や「うつ」などの疾患に対して効果を示すことが解っており、新型コロナウイルス感染症の後遺症についても同様に期待できるのではとも言われています。
近年日本でも、一部のクリニックで新型コロナの後遺症に対してCBDを用いた治療が行われ始めています。
CBDの後遺症に対するメカニズム
CBDが新型コロナウイルスに対して、どのようにアプローチすると考えられているのか記載してみました。
長くなってしまいますが読んでみてください。
新型コロナウイルスの増殖抑制
CBDを摂取すると、始めに肝臓で代謝され、7-ヒドロキシカンナビジール(7-OH-CBD) に変換されます。
この7-OH-CBDはウイルス遺伝子の発現を阻害し、サイトカインの一種であるインターフェロンを増加させ、ACE2と膜貫通型プロテアーゼセリン2(TMPRSS2)の発現を減少させることで新型コロナウイルスの複製を阻害することが示されています。
※ACE2(アンジオテンシン変換酵素2):新型コロナウイルスが細胞に侵入する際に重要な役割を果たします。ウイルスのスパイクタンパク質がACE2受容体に結合することで、ウイルスはヒトの細胞内に侵入し、感染が始まります。ACE2は主に肺、心臓、腎臓などに存在し、正常な機能として血圧調整や炎症制御に関与していますが、新型コロナウイルスとの結合によりこのバランスが乱れることが感染症の重症化の一因とされています。
※膜貫通型プロテアーゼセリン2(TMPRSS2):膜貫通型のプロテアーゼで、新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際に重要な役割を果たします。この酵素は、ウイルスのスパイクタンパク質を活性化し、ACE2受容体を介して細胞内への侵入を助けます。TMPRSS2は主に肺や他の臓器に発現しており、ウイルスの細胞侵入をサポートするため、COVID-19の感染過程で重要なターゲットとなっています。
カンナビノイド受容体を介した酸化ストレス・炎症の緩和
上記で説明したように、新型コロナウイルス感染症の後遺症は「酸化ストレス」や「炎症反応」から起こると考えられています。
CBDは「CB1」・「CB2」と呼ばれる2種類のカンナビノイド受容体を介して、後遺症の原因となる「酸化ストレス」・「炎症反応」を緩和することが期待されています。
まず、「CB1受容体」に関しては、CBDがCB1受容体に「負のアロステリックモジュレーター」として機能し、CB1受容体の効力を低下させると考えられています。
CB1受容体の効力が低下することで、「神経細胞での酸化ストレス」や「炎症性サイトカインの誘導」を防ぐことができると考えられています。
また、「CB2受容体」に関しては、CBDがCB2受容体に結合すると免疫細胞からの「炎症性サイトカインの誘導」や「酸化ストレス」を血管内で起こさないようにすることができるとされています。
ちなみに、CBDによって「炎症性サイトカインの誘導」や「酸化ストレス」を血管内で起こさないようにすることで「血液の過凝固」や「出血性疾患」を防ぐことができると考えられています。
CBDの後遺症に対するメカニズムは完全には明らかになっていませんが、このように一説ではカンナビノイド受容体を介して「酸化ストレス」・「炎症反応」を緩和することで、後遺症に対して効果を示すのではないかと考えられています。
※負のアロステリックモジュレーター:受容体に結合してその機能を抑制する物質
※炎症性サイトカイン:炎症反応を促進する働きを持つタンパク質
CBDの効果が期待されている新型コロナウイルス感染症の後遺症
上記でも説明したように、CBDを用いた新型コロナウイルス感染症の後遺症に対する直接的な研究は少なく、効果があるかは完全には明らかになっていません。
しかし、CBDは過去の研究結果から、新型コロナウイルス感染症の後遺症に対して効果が期待されています。
ここでは、CBDの効果が期待されている新型コロナウイルス感染症の後遺症を5つご紹介したいと思います。
不安障害
新型コロナウイルスの感染後は精神疾患発症のリスクが上がるとされており、中でも「不安障害」が最も発症する可能性が高いと言われています。
CBDは「不安障害」を改善する効果が示唆されており、新型コロナウイルス感染症の後遺症である「不安障害」に対して効果が期待できるのではないかと考えられています。
2022年の研究では、不安障害の患者31名に対して、800mgのCBDを12週間の間投与し、有用性が評価されました。
その結果、CBDを投与された被験者は「OASIS(不安の程度を測るテスト)」のスコアを大幅に減少し、不安障害の症状を改善したことが示唆されました。
この研究結果は、新型コロナウイルス感染症の後遺症である「不安障害」に対して直接効果を示しているわけではありませんが、後遺症にお悩みの方は試しにCBDを摂取してもいいかもしれません。
うつ病
上記で、新型コロナウイルスの感染後は精神疾患発症のリスクが上がると説明しましたが、「うつ病」もよく見られる症状の1つです。
CBDは「うつ病」に対して効果が期待されており、新型コロナウイルス感染症の後遺症である「うつ病」に対して効果が期待できるのではないかと言われています。
実際に2016年に行われた研究では、マウスにCBDを投与した際に即効性のある「抗うつ効果」が確認されたと報告されています。
さらに、他の研究でもCBDが「三環系抗うつ薬であるイミプラミン(トフラニール)」と似たような「抗うつ作用」を示すことが示唆されています。
これらの研究結果は、新型コロナの後遺症である「うつ病」に対して直接効果を示しているわけではありませんが、「うつ病」に対する有用性を示唆しています。
睡眠障害
新型コロナウイルス感染症の後遺症にも様々な症状がありますが、その中でも「睡眠障害」にお悩みの方は10%いると言われています。
CBDは「睡眠障害」に対して効果が期待されており、新型コロナウイルス感染症の後遺症である「睡眠障害」に対しても効果が期待できるのではないかと考えられています。
ここでは、CBDが「睡眠障害」に対して効果を示した過去の研究をご紹介したいと思います。
2019年に行われた研究では、睡眠障害を抱える患者にCBDを投与したところ、66.7%の患者で睡眠スコアが改善し、79.2%で不安スコアの低下が報告されました。
この研究結果は、後遺症である「睡眠障害」に対して直接効果を示しているわけではありませんが、「寝つきが悪い」や「途中で目が覚める」などの睡眠障害に悩む方はCBDを摂取してもいいかもしれません。
偏頭痛
新型コロナウイルス感染症の後遺症の1つである「偏頭痛」にお悩みの方がいると報告されています。
CBDには「鎮痛作用」があるとされており、新型コロナウイルス感染症の後遺症である「偏頭痛」に対しても効果が期待できるのではないかと言われています。
ここでは、CBDが「偏頭痛」に対して効果を示した調査をご紹介したいと思います。
ある調査では、偏頭痛持ちの患者105名にCBDオイルが30日間投与され、判断基準として「HIT-6(頭痛の日常生活への影響を数値化するテスト)」が使用されました。
その結果、参加者の86%が「偏頭痛が和らいだ」と答え、頭痛を感じた日数は平均で3. 8日減少したことが確認されました。
この研究は厳密な臨床試験ではないものの、CBDが「偏頭痛」に対して有効である可能性を示唆しています。
認知機能障害
CBDは「認知機能障害」に対して効果が期待されており、新型コロナウイルス感染症の後遺症である「認知機能障害」に対しても効果が期待できるのではないかと考えられています。
2018年の研究では、統合失調症患者にCBDまたはプラセボ(偽薬)を投与し、安全性と有用性を評価しました。
研究の結果、CBDを投与された患者は、そうでない患者に比べて、認知機能などに関する症状が大きく改善をしたことが報告されました。
この研究は、新型コロナウイルス感染症の後遺症である「認知機能障害」に対して直接効果を示しているわけではありませんが、「認知機能障害」に対する有用性を示唆しています。
CBDを新型コロナの後遺症に利用する際の注意点
ここでは、CBDを新型コロナウイルス感染症の後遺症に利用する際の注意点を2つご紹介したいと思います。
医薬品との飲み合わせに注意する
「抗うつ薬」などの医薬品を摂取している方は、CBDを新型コロナウイルス感染症の後遺症に利用する際に注意が必要です。
理由としては、CBDに薬物代謝酵素である「CYP450」の働きを阻害する作用があるからです。
「CYP450」の働きがCBDによって阻害されると、「抗うつ薬」などの医薬品の副作用が誘発される可能性が高くなります。
ただ、「日本臨床カンナビノイド学会」によると、CBDの1日の摂取量が「2mg/kg/以下」であれば、CBDが「CYP450」に影響を与える可能性は高くないと言われています。
「抗うつ薬」などの医薬品を摂取している方が、CBDを新型コロナの後遺症に利用する際は、上記の摂取量を参考にしてみてください。
適切な量のCBDを摂取する
CBDの効果を最大限に引き出すには、個々に適した量を摂取することが重要です。
しかし、多くの方は「どのくらいの量を摂ればよいのか分からない」と感じることが多いでしょう。
そのような場合には、「臨床CBDオイル協会」の推奨する以下の摂取量を参考にしてみることをおすすめします。
- 体重1kgあたり0.25〜0.5mgのCBDを1日2回
例えば、体重が60kgの方であれば、1日2回に分けて15〜30mgのCBDを摂取することが適量となります。
また、十分な効果が実感できない場合は、4日〜1週間ほど様子を見ながら、体重1kgあたり0.5mgずつ増量してみることも1つの方法です。
CBD薬剤師の質問コーナー
CBDは新型コロナウイルスに対する予防効果がある?
CBDには新型コロナウイルスに対する潜在的な効果が示唆されています。
特に、カナダの研究では、CBDを多く含む大麻抽出物が新型コロナウイルスが人体に感染する際に必要とされる「ACE2受容体」の発現を調節できる可能性があると報告されています。
ウイルスが細胞に感染する際、細胞表面に存在する「ACE2受容体」と結合して細胞に侵入する必要があります。
この研究では、800種類以上の新しい大麻系統と抽出物を開発し、「ACE2受容体」の発現を調整する能力を持つ13種類の高CBD大麻抽出物を特定しています。
口腔、気道、および腸組織の人工ヒト3Dモデルを用いたスクリーニングで、この調節効果が確認されました。
このことから、CBDは新型コロナウイルスによるダメージを軽減する可能性があると考えられていますが、さらなる研究が必要です。
CBDは新型コロナウイルスによる肺へのダメージを軽減しますか?
現時点の研究によると、CBDが新型コロナウイルスによる肺へのダメージ、特に「サイトカイン・ストーム」によって引き起こされる「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」に対して、ある程度の軽減効果を持つ可能性が示唆されています。
「サイトカイン・ストーム」とは、免疫細胞がウイルスと戦うために分泌する「サイトカイン」が制御不能となり、過剰に放出され続ける状態で、新型コロナウイルス感染の重症化に関連しています。
具体的な研究結果では、ARDSモデルに対してCBDを投与することで、血液中の酸素レベルが改善し、サイトカインの過剰放出が抑制されたと報告されています。
ただし、これらの結果はまだ研究段階であり、CBDが新型コロナウイルス感染による肺へのダメージを確実に軽減するかどうかは、今後のさらなる研究が必要です
参考文献
- The potential of cannabidiol in the COVID-19 pandemic
- Cannabidiol inhibits SARS-CoV-2 replication through induction of the host ER stress and innate immune responses
- Possible Role of Cannabis in the Management of Neuroinflammation in Patients with Post-COVID Condition
- The Effects of Cannabinoids on Pro- and Anti-Inflammatory Cytokines: A Systematic Review of In Vivo Studies
- Cannabidiol in Anxiety and Sleep: A Large Case Series
- Cannabidiol induces rapid-acting antidepressant-like effects and enhances cortical 5-HT/glutamate neurotransmission: role of 5-HT1A receptor
- Survey Shows CBD Has Positive Impact on Migraines
- In Search of Preventative Strategies: Novel Anti-Inflammatory High-CBD Cannabis Sativa Extracts Modulate ACE2 Expression in COVID-19 Gateway Tissues
- Cannabidiol (CBD) as an Adjunctive Therapy in Schizophrenia: A Multicenter Randomized Controlled Trial