皆さんは、これまでに「カンナビノイド」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
近年、人気が高まっている「CBD」を知っている方なら、一度は耳にしたことがあるかもしれません。
本記事では、薬剤師である私が、そんな「カンナビノイド」の種類やそれぞれの違法性について詳しく解説したいと思います。
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そもそもカンナビノイドとは?
簡単に言うと、「カンナビノイド」とは生理活性物質の総称であり、代表的なものとしては「CBD」や「THC」などが挙げられます。
ここでは、「カンナビノイド」の種類と体に働くメカニズムについて解説したいと思います。
カンナビノイドは3種類に分類される
実はカンナビノイドは、
- フィト(植物性)カンナビノイド
- 内因性カンナビノイド
- 合成カンナビノイド
の3種類に分類することができます。
ここでは、上記の3種類のカンナビノイドの特徴を解説したいと思うので、是非チェックしてみてください。
フィト(植物性)カンナビノイド
植物性(フィト)カンナビノイドとは、大麻草の「トリコーム(毛状突起)」で生成される植物由来のカンナビノイドのことです。
大麻草には、少なくとも100種類以上の植物性(フィト)カンナビノイドが含まれており、代表的なものとして「CBD」や「THC」などが挙げられます。
最近では、これらの成分を含む製品が世界中で多く販売されており、日本でもオイルやリキッド・カプセル状の製品が人気を集めています。
内因性カンナビノイド
内因性カンナビノイドとは、人体で作られる成分のことであり、「フィトカンナビノイド」に似た作用と構造を持っています。
代表的なものとしては、1992年に発見された「アナンダミド」や、1995年に発見された「2-アラキドノイルグリセロール」などが挙げられます。
過去の研究では、内因性カンナビノイドは「疼痛」や「運動」・「摂食の調節」・「記憶」などに関与していることが分かっています。
合成カンナビノイド
合成カンナビノイドとは、化学合成によって製造される「人工的な大麻成分」です。
この成分の多くは、強い精神活性作用があるといった特徴があり、摂取することで俗に言う「ハイになる」といった高揚感を感じるとされています。
このように、カンナビノイドと一口にいっても複数あるため、それぞれの特徴を理解することが重要となります。
カンナビノイドが体に働くメカニズム
カンナビノイドは、主に体内に存在する「CB1」・「CB2」などの受容体に直接・間接的に作用することで、身体に様々な効果をもたらすとされています。
CB1受容体は、脳など中枢神経に分布しており、痛みやリラックス・不安・多幸感などの効果に関係していると言われています。
一方、CB2受容体は、末梢神経や免疫細胞に分布しており、炎症や免疫系の調整などの効果に関係していると言われています。
このようなCBDなどの成分が人体に作用する一連の流れを「ECS(エンドカンナビノイドシステム)」と言い、一説では体内の恒常性の維持に役立っていると考えられています。
また、最近の研究では、成分の種類によっては「セロトニン受容体」などの「CB1」・「CB2」以外の受容体に作用することが分かってきており、今後の更なる研究に期待が高まります。
日本で合法なフィト(植物性)カンナビノイド
ここまでの説明から、3種類のカンナビノイドについてお分かり頂けたと思います。
ここでは、日本で合法的に利用できる大麻由来の成分を5つご紹介したいと思います。
CBD(カンナビジオール)
CBDとは、「カンナビジオール(Cannabidiol)」の略称であり、大麻草に含まれる主成分の1つです。
CBDは大麻草に含まれる成分ですが、「依存性」・「危険性」が無いことが分かっています。
実際に2017年には「WHO(世界保健機関)」により、「CBDは乱用・依存に関する作用を示さない」ことが報告されています。
さらに、CBDは、重篤な副作用や精神活性作用が無いことも報告されていて、安全性が高いことが分かっています。
また、CBDには「リラクゼーション」など様々な効果があるとされており、多くの疾患に対して有用性が期待されています。
近年日本でも、食品を初め化粧品や嗜好品などの分野で、CBD製品の販売が拡大しているのでチェックしてみてください。
CBG(カンナビゲロール)
CBG(Cannabigerol)とは、1964年に発見された希少性の高い「レアカンナビノイド」の1つであり、CBDなどの元となる成分であることから「カンナビノイドの母」とも言われています。
CBGは「CB1」・「CB2」受容体にCBDに比べて強く作用することから、効果をCBDよりも感じやすいとも言われています。
最近では、品種改良によってCBGを多く含む大麻草が栽培されており、日本でも多くのユーザーに愛用されています。
CBGは過去の研究から、
- 神経保護作用
- 食欲増進効果
- 抗腫瘍作用
- 抗炎症作用
- 抗菌作用
などの効果が期待されています。
また、CBGはTHCと異なり精神活性作用や違法性が無いため、新たな治療薬としての可能性も期待されています。
CBN(カンナビノール)
CBNとは、カンナビノール(Cannabinol)の略称で、「THC」という成分が酸化・分解されることで形成される大麻成分の1つです。
CBNには、「CB1」に対してTHCの4分の1の結合力があると考えられており、一説ではTHCの10分の1の精神活性作用があるとも言われています。
また、CBNは過去の研究から、
- 睡眠の質の改善
- 痛みの緩和
- 抗炎症作用
- 抗菌作用
- 緑内障の治療
などの効果が期待されています。
CBNは日本でも合法で使用できますが、過去の研究から高濃度を摂取した場合は、薬物検査において陽性反応を示す可能性があることが報告されています。
そのため、高濃度のCBNを摂取する際は、睡眠前や外出しない日などに利用することをおすすめします。
CBDV(カンナビディバリン)
CBDVは、「Cannabidivarin(カンナビディバリン)」の略称で、1970年代初頭に発見された大麻成分の1つです。
CBDVは、名前からも分かるように「CBD」とよく似た成分ではあるのですが、効果やECSに対する作用機序などが若干異なります。
具体的には、CBDには「リラクゼーション」など様々な効果があるとされていますが、CBDVにはそのような効果は期待されていません。
代わりに、CBDVにはCBDと違い、「自閉症スペクトラム」や「レット症候群」・「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」などの疾患に対して効果があることが分かっています。
また、ECSの作用機序の面では、CBDVはCBDの約4分の1の効力でECSに作用することも分かっています。
CBC(カンナビクロメン)
CBCは、1966年に発見された大麻成分の1つであり、神経疾患に対する治療効果などから注目を集めています。
CBCは「TRPV1」・「TRPA1」といった受容体に強く結合することで、様々な効果を生み出すと考えられています。
他にも、過去の研究からCBCは、
- 痛みの軽減
- 抗炎症作用
- 抗菌作用
- ニキビの改善
などの効果が期待されています。
また、CBCには精神活性作用が無いことも分かっており、上記で紹介した成分と同様に日本でも合法で使用することができます。
CBT(カンナビノトリオール)
CBTは、1966年に日本の研究者によって発見されたカンナビノイドので、大麻草に含まれる成分です。
この成分は「CB1」受容体に間接的に作用し、さまざまな効果を引き起こす可能性があると考えられています。
過去の研究から、CBTには以下の効果が期待されています。
- 乳がんの抑制
- 緑内障の治療効果
- THCの精神活性作用の緩和
さらに、CBTは精神活性作用がないため、日本でも合法的に使用できますが、希少性が高いため、安全性については今後の研究が待たれています。
日本で違法なカンナビノイド
ここまでの説明から、日本で合法的に利用できるフィト(植物性)カンナビノイドについてお分かり頂けたと思います。
ここでは、日本で使用できない違法なカンナビノイドを5つご紹介します。
THC(テトラヒドロカンナビノール)
THCとは、「テトラヒドロカンナビノール(Tetrahydrocannabinol)」の略称であり、CBDと並ぶ大麻草の主成分の1つです。
この成分は、CBDと違い「精神活性作用」や「精神的依存性」を持つといった特徴があることが分かっています。
THCは過去の実験から、
- 鎮痛作用
- 抗炎症作用
- 食欲増進作用
- 抗けいれん作用
- 吐き気の抑制
などの効果が期待されており、海外ではTHCを含んだ大麻は医療や嗜好目的で利用されています。
現在日本では、THCを含んだ大麻や製品は「大麻取締法」によって所持や譲渡・譲受などが禁止されています。
しかし、厚生労働省は昨年、法改正によって医療用大麻を解禁する方針であることを発表しました。
日本でも医療大麻が解禁されることによって、様々な疾患の治療に対してTHCを含んだ医療大麻が活用される日も遠くないかもしれません。
THCV(テトラヒドロカンナビビリン)
THCVは、1970年代に発見されたレアカンナビノイドの1つです、
THCVは摂取する量によって精神活性作用の有無が異なり、一定量以上を摂取すると精神活性作用が引き起こされるとされています。
THCVは過去の研究から食欲抑制効果の他にも、
- 抗炎症作用
- 神経保護作用
- 血糖値の調整
- 食欲抑制作用
- 抗けいれん作用
などの効果が期待されています。
このように、医学的有用性が期待されているTHCVですが、2023年の8月に「指定薬物」に指定されたため、現在日本では利用することができません。
HHC(ヘキサヒドロカンナビノール)
HHCとは、強い精神活性作用があるとされる半合成カンナビノイドの1つです。
半合成カンナビノイドとは、大麻草にごく微量に含まれる「カンナビノイド」を化学的に合成して製造された成分のことです。
HHCは、主にフィト(植物性)カンナビノイドである「CBD」や「THC」を「水素化」することで製造されます。
また、この成分は「麻薬及び向精神薬取締法」によって2022年の3月に規制されており、現在は使用することができません。
THCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)
THCHは、2020年に発見された半合成カンナビノイドであり、強い精神活性作用があるとされています。
この成分は、「アルキル側鎖」という原子の塊に6つの炭素があり、THCとよく似た化学構造をしていることが分かっています。
一説では炭素の数は精神作用の強さに比例すると考えられており、THCHは炭素の数が5つのTHCよりも強い精神作用があるとも言われています。
また、THCHはTHCVと同様に2023年8月の「指定薬物」に指定されているため、日本では使用することができません。
THCB(テトラヒドロカンナビブトール)
THCBは、2019年に発見された半合成カンナビノイドであり、過去の研究からTHCに似た作用があることが示唆されています。
実際に過去の動物実験では、
- 睡眠の質の改善
- 抗炎症作用
- 鎮痛作用
などのTHCに似た作用を持つことが示唆されています。
このような作用を持つTHCBですが、幻覚作用や記憶への影響などの健康被害が懸念されるとして、2023年の8月に「指定薬物」として規制されています。
HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)
HHCHとは、大麻草に含まれる「THCH」を「水素化」することで製造される合成カンナビノイドの1つです。
この成分は、2023年の11月に指定薬物に追加され、2023年12月に「HHCH」の所持や販売・使用が禁止されました。
HHCHが規制された背景には、HHCHを含んだグミ製品を摂取した男女が嘔吐といった体調不良を訴え、救急搬送されたという事件が関係しています。
HHCP(ヘキサヒドロカンナビホロール)
HHCPは「レアカンナビノイド」の一種であり、2024年1月に法律で規制され、利用することができません。
日本で流通していた「HHCP」は合成成分のものが殆どであり、効果や安全性に関する研究は、現在でもほとんどありません。
規制前に一部のユーザーからは、下記のようなHHCに似た効果があり、HHCの1.5〜2倍の効果があるとも言われていました。
- 多幸感
- 鎮痛作用
- 不安の緩和
- 抗炎症作用
THCPO(テトラヒドロカンナビフォロール・アセテート)
THCPOは、THCP(カンナビフォロール)と呼ばれる成分を「アセチル化」することで製造される合成カンナビノイドのことです。
ちなみに、この「アセチル化」とは、アセチル基が有機化合物に追加されること(くっつく反応のこと)を指します。
THCPは、THCよりも強い精神活性効果を生む成分ですが、2023年9月に規制され、現在は違法となっています。
THCPOは、2024年5月11日より「指定薬物」として規制されており、日本国内で違法となっています。
今後規制がされる可能性があるカンナビノイド
近年、THCHやTHCB・HHCHなど多くのカンナビノイドが指定薬物として規制されています。
ここでは、今後規制される可能性があるカンナビノイドを5つご紹介します。
H4CBD(ヘキサヒドロカンナビジオール)
H4CBDは、CBDを「水素化」して製造される合成カンナビノイドのことであり、「水素化CBD」と呼ばれることもあります。
この成分は、「CB1」受容体に対する結合親和性がCBDの100倍であると考えられており、精神活性作用があると考えられています。
ただ、H4CBDは、安全性が明らかになっておらず、人体に悪影響を与える可能性があるため、利用することはおすすめできません。
HCCPM(ヘキサヒドロカンナビホロールメチルエーテル)
HHCPMは合成カンナビノイドで、精神活性作用があるとされています。
HHCPをメチルエーテル化して作られており、HHCPと似た作用を持つものの、現時点ではHHCPMは規制されていません。
しかし、安全性が十分に確認されていないため、過剰摂取にはリスクが伴う可能性があります。
また、日本では精神活性作用のある成分が規制される傾向があるため、将来的にHHCPMも規制対象となる可能性があります。
CB9(カンナビジオール誘導体)
CB9は、CBDの誘導体として化学的に製造される合成カンナビノイドです。
この成分は、CB1およびCB2受容体に作用し、適度な精神活性作用を引き起こすことが報告されています。
リラクゼーション効果や軽い高揚感が得られる可能性があるものの、長期的な安全性はまだ十分に検証されていません。
現時点では、日本での規制対象にはなっていませんが、使用には注意が必要です。
10-OH-HHC(10-ヒドロキシ-ヘキサヒドロカンナビノール)
10-OH-HHCは、HHCの水酸化誘導体で、穏やかな精神活性作用を持つとされています。
CB1およびCB2受容体に作用し、リラクゼーション効果や鎮痛作用がある可能性がありますが、現段階では研究が不足しており、安全性の確認も不十分です。
現在、日本での規制対象にはなっていませんが、慎重な使用が推奨されます。
CBP(カンナビノイドパッカン)
CBPは、タイの大麻産業グループ「PACCAN」によって開発された合成カンナビノイドです。
この成分は、精神活性作用があるとされており、CB1受容体に作用することで「キマる」効果がある可能性があります。
しかし、安全性が十分に確認されておらず、副作用として腹痛やアレルギー反応が報告されています。
また、現在のところ日本での所持や使用は違法ではありませんが、精神活性作用があるため、将来的に規制対象となる可能性があります。
参考文献
- Adverse Effects of Oral Cannabidiol: An Updated Systematic Review of Randomized Controlled Trials (2020–2022)
- Cannabigerol Action at Cannabinoid CB1 and CB2 Receptors and at CB1–CB2 Heteroreceptor Complexes
- Δ9-Tetrahydrocannabinol and Cannabinol Activate Capsaicin-Sensitive Sensory Nerves via a CB1 and CB2 Cannabinoid Receptor-Independent Mechanism
- A potential role for cannabichromene in modulating TRP channels during acute respiratory distress syndrome
- The diverse CB1 and CB2 receptor pharmacology of three plant cannabinoids: delta9-tetrahydrocannabinol, cannabidiol and delta9-tetrahydrocannabivarin
- 厚生労働省 指定薬物一覧