CBDは「リラクゼーション」や「ストレス緩和」などの効果から、日本を含めた世界中で注目を集めています。
そんな「CBD」ですが、近年「認知症に対しても効果があるのでは?」といった噂を耳にすることが増えてきています。
本記事では、薬剤師である私が「CBDは認知症に対して効果があるのか」ということについて、論文等を基に詳しく解説してみますので、ぜひ最後までご覧ください。
また、現在X(旧Twitter)・Instagramにて、CBDを含む大麻成分に関する情報をエビデンスを基に発信しているので、気になった方は是非チェックしてみてください!
そもそもCBDとは?
CBD(カンナビジオール)は「cannabidiol」の略称で、大麻草の茎や種子に含まれる「カンナビノイド」という成分の1つです。
CBDは精神に影響を与えることなく、身体への作用が期待されている成分であり、同じ大麻由来の成分である「THC(テトラヒドロカンナビノール)」とは異なり精神活性作用を引き起こしません。
ここでは、そんな「CBD」の「違法性や安全性」・「主な効果」に関して簡単にご説明できればと思います。
CBDの違法性と安全性
CBDが大麻由来の成分であることから、「違法性」や「安全性」に不安を感じる方も多いかもしれません。
しかし、2023年12月に大麻取締法が改正され、CBDは「麻薬及び向精神薬取締法」により、規定されることとなりました。
そして、麻薬及び向精神薬取締法により明確に取締まりから除外されました。そのため、利用や所持も規制されません。
安全性についても、過去の研究より「CBDには毒性や有害性が認められない」ということが確認されています。
さらに、国際機関の1つである「世界保健機関(WHO)」も「CBDは忍容性が高い成分」であるという評価をしています。
このように、CBDは違法性がなく、安全性が高い成分であるため、所持や利用する際に過度に心配する必要はありません。
CBDの主な効果
CBDには、以下のような効果が期待されています。
- 睡眠の補助
- リラックス効果
- ストレス緩和
- 抗炎症作用
- 抗酸化作用
- 鎮痛作用
- 抗菌作用
さらに、CBDは「てんかん」に対しても有用性が認められており、海外では「エピディオレックス(Epidiolex)」が抗てんかん薬として利用されています。
日本でもこのエピディオレックスの第3相臨床治験が行われており、今後、医療用途での利用が期待されています。
認知症とは?
認知症とは、脳の神経細胞が何らかの原因で損傷したり、死滅したりすることにより、記憶や判断力、認知機能などが徐々に低下していく病気です。
日本では現在、約700万人が認知症もしくはその予備軍とされており、65歳以上の高齢者の約5人に1人が該当するとされています。
ここでは、そんな「認知症」の「症状や原因」・「治療法」に関して簡単に解説したいと思います。
認知症の症状と原因
中核症状には、次のようなものがあります。
- 記憶障害:新しい記憶の障害、物忘れの増加、エピソード記憶の低下を伴う。
- 見当識障害:日時、現在地の失認、人物の認識が困難になる。
- 理解・判断力の低下:複雑な思考の困難、状況判断の低下、問題解決能力の低下。
- 言語障害:言葉の早期困難、言語理解力の低下、会話の障害(言葉の繰り返しや的外れな応答等)。
- 実行機能障害:計画・組織化の困難、段取りの不備、目的指向行動の障害。
周辺症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)は、認知症患者の行動・心理症状ともよばれます。認知症の中核症状に加えて現れる、「行動や精神状態の変化」をいいます。
主な周辺症状の種類には以下のようなものが挙げられます。
- 幻覚(幻視・幻聴も含む)
- 妄想
- 不安・抑うつ
- 興奮・攻撃性
- 徘徊
- 睡眠障害
- 食行動の異常
- 無関心・意欲低下
- 常同行動(同じ動作の繰り返し・言葉の反復など)
- 性的逸脱行為(公共の場での露出や性的な発言など)
認知症にはいくつかの病態が存在し、主なものとして、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などが挙げられます。それぞれ異なるメカニズムで認知症の症状が引き起こされると考えられています。
例えば、アルツハイマー型認知症では、脳内でアミロイドβ(ベータ)タンパク質の異常な蓄積や、タウタンパク質の異常なリン酸化によって神経細胞が変性・死滅します。その結果として脳神経細胞が傷害され、認知症が引き起こされると考えられています。
一方、レビー小体型認知症では、レビー小体(主にα-シヌクレイン(アルファ・シヌクレイン)というタンパク質が異常に折りたたまれ、凝集したもの)が脳神経細胞内に蓄積することで、認知症の症状を引き起こすと考えられています。
アルツハイマー型認知症は主に、記憶障害が中心となるのに対し、レビー小体型認知症では認知機能の変化以外に幻視、パーキンソン症状など多彩な症状を呈することが特徴的です。
認知症には根本的な治療法が確立されていないため、現在の治療は症状の進行を遅らせることを目的として行われています。
主な治療法には以下のものがあります。
- 薬物療法:ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどの認知症治療薬が使われ、認知症の症状進行を遅らせる効果があります。
- リハビリテーション:認知機能を維持するために、音楽療法や運動療法、作業療法が行われます。
- 心理的・社会的サポート:家族や介護者との関わりを通して、生活の質を向上させるアプローチです。
最近では、薬物療法だけでなく、コミュニケーションの工夫や生活習慣の改善、食事療法、サプリメントなどを活用した多角的なアプローチも注目されています。
また、現状では脳を刺激するデジタルツールの開発も進んでいますが、こちらは効果を科学的に裏付けるさらなる研究が求められています。
CBDは認知症に効果がある?
CBDは「てんかん」などの複数の疾患に対して有用性が期待されていますが、日本人にとっても身近な疾患である「認知症」に対してはどうでしょうか?
ここでは、「CBDが認知症に対して効果があるのか」ということについて詳しく解説したいと思います。
認知症に対する効果は完全には分かっていない
結論から言うと、CBDの認知症に対する効果は完全には明らかになっていません。
その理由は、認知症に対するCBDの研究の多くが動物実験や少人数の対象者を用いたものであり、人間を対象とした大規模かつ長期間の臨床試験が不足しているからです。
また、認知症は様々な原因によって引き起こされるため、CBDの総合的な効果を明確にするには、認知症のタイプ別にさらなる研究が必要とされています。
これも、効果が完全に明らかになっていない要因の1つと言えるでしょう。
とはいえ、過去に行われた動物実験や少人数の対象者を用いた研究では、CBDが認知症に対して効果を示す可能性が示唆されています。
CBDが認知症に対する効果を示唆した研究と症例
ここでは、CBDが認知症に対して効果を示す可能性を示唆した研究と症例を計3つご紹介したいと思いますので、ぜひチェックしてみてください。
①アルツハイマー型認知症のマウスモデルに対する研究
2020年の研究では、アルツハイマー型認知症の特徴を再現するように遺伝的に改変されたマウスモデルを用いて、CBDの認知機能への効果が評価されました。
このモデルでは脳内にアミロイドβが蓄積し、認知機能の低下が見られるため、アルツハイマー型認知症の研究に適しています。
研究では、12か月齢の雄マウスに3週間、毎日50 mg/kgのCBDを投与し、記憶や認識機能の改善が調査されました。
その結果、CBDを投与されたマウスでは、社会的認識記憶や空間学習が改善が確認され、認知機能が回復したことが報告されました。
②行動異常型前頭側頭型認知症に伴う覚醒時の歯ぎしりに対する症例
ここでは、「bvFTD(行動異常型前頭側頭型認知症)」の患者に対する症例をご紹介したいと思います。
「bvFTD」は、主に行動や精神、認知機能に変化が現れるタイプの認知症で、症状の1つとして覚醒時の歯ぎしりが見られることがあります。
海外のある症例では、「bvFTDを患う男性」が覚醒時に強い歯ぎしりを起こし、複数回の治療を受けたものの、症状の改善が部分的にしか得られませんでした。
しかし、CBDカプセルを補助治療として使用したところ、歯ぎしりがほぼ完全に軽減されたことが報告されました。
このケースでは、CBDが覚醒時の歯ぎしりに対する有効な補助療法として機能したことが結論づけられました。
なお、現時点で「bvFTD」に伴う歯ぎしりに対する標準的な薬理学的治療法は確立されていません。
③認知症による問題行動が重度の患者に対する研究
認知症の周辺症状、いわゆる「BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」は、認知症の症状進行と共に「問題行動の増加」という形で表面化してきます。このことは患者の介護を行う介護者にとって大きな負担となります。
2024年の研究では、BPSDの管理が求められる臨床現場において、CBD3%の投与が有益かどうかが調査されました。
この研究では、重度のBPSD患者20名を対象に、「UMT(通常の医療治療)グループ」と「CBD滴下オイルによる治療グループ」の2つに分けて、6か月間の追跡調査が行われました。
その結果、CBDを投与されたグループでは、BPSDの症状が全般的に大幅な改善を示した一方、UMTグループでは改善がほとんど見られませんでした。
この結果から、CBDは認知症による周辺症状を効果的に管理できる可能性が示唆されており、医療現場へのBPSDに対する新たな選択肢となると考えられます。
今後、さらなる大規模な臨床試験によって効果が再確認されれば、CBDが認知症ケアにおける安全で効果的な治療法として普及する可能性があります。
CBDの認知症に対するメカニズム
現段階では、CBDの認知症に対するメカニズムは完全には解明されていませんが、CBDに期待されている次の2つの作用が仮説として考えられています。
まず、CBDの「神経保護作用」です。
認知症は、脳神経細胞の損傷・及び死滅が原因となって発症すると考えられているが、CBDによる「神経保護作用」により脳神経細胞の損傷を抑制する効果が期待されています。
次に、CBDの「抗炎症作用」が挙げられます。
認知症の進行には、脳内の慢性的な炎症が関与しているとされており、「抗炎症作用」によりCBDが炎症を抑えることで症状の進行を遅らせる可能性があるのではないかと考えられています。
このように、CBDの認知症に対する効果を示す可能性はありますが、まだ完全には解明されておらず、さらなる研究が必要だと言えます。
THCも認知症に対して効果が期待されている
上記では、CBDが認知症に対して効果を示す可能性が示唆されていることをお伝えしましたが、実は同じカンナビノイドの「THC」も認知症に対して効果が期待されています。
ここでは、THCの認知症に対する効果を過去の研究と症例を基にお伝えしたいと思います。
①THC主体の大麻抽出物がアルツハイマー型認知症に及ぼす影響(イタリアの観察研究)
イタリアのモデナにある医療相談機関による観察研究では、THC主体の大麻抽出物が、アルツハイマー病の主な症状である興奮や体重減少に及ぼす効果が検証されました。
この研究には65〜90歳のアルツハイマー型認知症患者30名(男性9名、女性21名)が参加し、1日2回、12週間にわたって経口でTHC主体の大麻抽出物が投与されました。
評価には、「NPI-Q(神経精神症状評価)」・「CMAI(興奮性評価)」・「MMSE(認知機能評価)」などが用いられました。
結果として、NPI-Qのスコアでは「興奮」・「無関心」・「易怒性」・「睡眠障害」・「摂食障害」がいずれも有意に減少し、介護者のストレスも軽減されました。
CMAIによる評価では、「身体的および言語的な攻撃行動」が全患者で減少し、MMSEのスコアでは45%の患者において「認知機能の改善」が確認されました。
ちなみに研究者は、この結果からTHC主体の大麻抽出物がアルツハイマー型認知症における症状緩和と安全性の面で有効であると結論づけました。
②低用量のTHCによる認知機能の回復効果(ドイツのマウス研究)
ドイツの研究者チームによるマウス実験では、低用量のTHCが、加齢による認知機能低下を回復させる可能性が示唆されました。
この研究では、老齢期にあたる12か月齢と18か月齢のマウスに慢性的に低用量のTHCを投与し、認知機能への影響が評価されました。
結果として、THCを投与された老齢マウスでは、認知機能が若年期レベルにまで回復し、特に海馬のシナプスマーカータンパク質の発現や棘密度の増加が確認されました。
シナプスマーカータンパク質の発現増加や棘密度の増加は、神経細胞間のコミュニケーションを強化し、シナプス可塑性(シナプスの強さや数が変化する能力)が向上していることを示しています。これにより、学習や記憶などの認知機能が改善する可能性があります。
また、THCが海馬内の遺伝子転写パターンに変化をもたらし、これが若年期のマウスと非常に似たプロファイルに戻ったことも観察されました。
この研究は、高齢者に対するTHCの低用量投与が認知機能のサポートとなり得ることを示唆しており、今後のさらなる検証が期待されています。
③THCマイクロドージングによる認知機能と生活の質の改善(ブラジルの症例)
2022年のブラジルの症例報告では、THC主体の大麻抽出物のマイクロドージングが、アルツハイマー型認知症患者の認知機能と生活の質(QOL)を改善する可能性が示されました。
マイクロドージングとは、体に作用を感じない程度のごく少量の薬物を定期的に摂取する方法のことです。
この症例の対象は、ブラジル在住の75歳の男性で、認知機能低下や見当識障害、物忘れが進行し、自立した生活が困難になっていました。
治療の効果は、認知機能検査(MMSE、ADAS-Cog)で評価され、治療開始から30日目でMMSEスコアが21点から25点に、ADAS-Cogスコアが25点から10点に改善されました。
この改善は22か月間安定して続き、治療終了後も維持されました。
さらに患者は「物忘れがなくなり、道に迷わなくなった」・「日々の生活にハリが出て、夜もよく眠れるようになった」と報告し、生活の質の向上も実感していました。
この症例は、THCのマイクロドージングがアルツハイマー型認知症の認知機能や生活の質の改善に寄与する可能性を示唆していますが、大規模な臨床試験によるさらなる検証が求められています。
CBDと認知症治療薬の併用には注意が必要
認知症の治療で使用されるドネペジルなどの認知症治療薬を服用している方は、CBDとの併用に注意が必要です。
CBDには、薬物代謝酵素である「CYP450」の働きを阻害する作用があるとされ、これにより認知症治療薬の血中濃度が上昇し、副作用が強まる可能性があるためです。
ただし、「日本臨床カンナビノイド学会」によると、1日のCBD摂取量が「2mg/kg以下」であれば、薬の代謝に大きな影響を与えるリスクは低いとされています。
例えば、体重が60kgの方の場合は120mg以下、体重が100kgの方の場合は200mg以下の摂取量であれば問題が少ないと考えられます。
CBDとドネペジルなどの認知症治療薬を併用する際は、上記の目安量を参考にし、過剰摂取を避けるよう心がけてください。
まとめ
CBDは、リラクゼーションやストレス緩和、抗炎症作用などの効果から注目されており、認知症に対する有用性についても期待が寄せられています。
しかし、現段階では認知症に対するCBDの効果は完全に解明されておらず、さらなる研究が必要です。
本記事では、CBDの基本的な特徴や安全性、認知症の症状や治療法についても触れ、CBDが認知症に対してどのように作用する可能性があるかを紹介しました。
さらに、他のカンナビノイドであるTHCについても、認知症の症状を改善する可能性があると示唆される研究結果を取り上げました。
今後の研究によって、CBDやTHCが認知症ケアにおける新たな治療選択肢として普及する可能性も期待されていますが、現時点では慎重な使用と医師との相談が重要です。
参考文献
- Chronic Treatment with 50 mg/kg Cannabidiol Improves Cognition and Moderately Reduces Aβ40 Levels in 12-Month-Old Male AβPPswe/PS1ΔE9 Transgenic Mice
- Cannabidiol in the management of awake bruxism in a patient with behavioral variant frontotemporal dementia (bvFTD)
- Efficacy of 3% cannabidiol (CBD) in managing behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD): A 6-month follow-up study
- Use of THC-predominant cannabis extract for improving symptoms in Alzheimer’s patients: An observational study in Modena, Italy
- Chronic low-dose Δ9-tetrahydrocannabinol (THC) treatment restores cognitive function in aged mice
- Cannabinoid extract in microdoses ameliorates mnemonic and nonmnemonic Alzheimer’s disease symptoms: A case report