「レチノールを使っているのにA反応が出ない……これって効果がないの?」
そんな不安を感じている方は少なくないのではないでしょうか。何も起こらないと、逆に「意味があるの?」と疑ってしまいますよね。
この記事では、薬剤師の視点から「A反応が出ない場合、本当に効果があるのか」ということや、「A反応が出ない人の理由」など徹底解説します。
さらに後半では、美容業界で注目されている「CBD成分」についても紹介します。

日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師
日本臨床カンナビノイド学会認定登録師
所属学会:日本薬理学会、日本緩和医療薬学会、日本在宅薬学会、日本臨床カンナビノイド学会
A反応(レチノイド反応)とは?メカニズムも解説
そもそもレチノールは、ビタミンAの一種で、肌のターンオーバー(生まれ変わり)を促進し、シワやくすみ、毛穴の開きなどを改善する作用を持つ成分です。
肌細胞の再生をサポートし、ハリや弾力を高める「エイジングケアの代表成分」として幅広く使用されています。
ここでは、そんなレチノールとA反応(レチノイド反応)の関係性について簡単に説明します。
アゼライン酸とレチノールの違いについて詳しく知りたい方はこちら
A反応の概要

レチノールを使い始めた際に、一時的に起こる肌の変化をA反応(レチノイド反応)と呼びます。
代表的な症状は赤み・乾燥・皮むけ・ヒリつき・細かなブツブツなど。見た目は肌荒れに似ていますが、ターンオーバーの活性化に伴う一過性の反応で、多くは2〜6週間で落ち着きます。
ただし、強い痛み・滲出・2か月以上の長期化などはA反応以外のトラブルの可能性があるため、使用を中止して皮膚科へ相談することをおすすめします。
A反応が起きるメカニズム
レチノールは、肌の内側にある「ビタミンAレセプター(受容体)」に結びつくことで、「新しい肌を作りなさい」という指令を細胞に伝えます。
この受容体は「核内受容体」と呼ばれ、結合したレチノールが遺伝子の転写を活性化し、コラーゲン生成や細胞分化を促す働きをします。
その結果、古い角質が自然にはがれ落ち、新しい細胞がどんどん生まれ変わるという現象が起こります。
ただ、人によってはターンオーバー(肌の生まれ変わり)のスピードが急に上がりすぎてしまい、乾燥や赤み、ヒリヒリ感などが出やすくなります。
これがいわゆる「A反応(レチノイド反応)」です。
A反応が出なくても効果はある?

レチノールを使っても赤みも皮むけも起きていなくて、「本当に効いているの?」と不安に感じる方は多いでしょう。
ですが、結論から言うと、A反応が出ないからといって効果が出ていないわけではありません。
A反応はあくまで、肌がレチノールに慣れていない初期段階で起こる一時的な反応にすぎず、むしろ肌に負担がかかりすぎているサインであることもあります。
A反応が起きてなくても、肌の奥では細胞修復やコラーゲン生成がゆっくり進んでいます。
「A反応がない=効いていない」のではなく、刺激に負けず安定して効果を発揮できている状態と考えてよいでしょう。
A反応が出ない人がいるのはなぜ?
ここでは、A反応が出にくい人の特徴を4つの理由に分けて解説します。
① 肌のビタミンA量が十分にある
ビタミンAは、レバー・卵黄・うなぎ・にんじんなどに多く含まれる脂溶性ビタミンで、食事からも日常的に摂取できる栄養素です。
普段の食生活でビタミンAがしっかり補われている人は、肌内部のビタミンA濃度が安定しており、A反応が出にくい傾向があります。いわば肌の中に「ビタミンA貯金」が存在している状態です。
この貯金が十分にあると、レチノールを塗っても肌が刺激を感じにくく、落ち着いて成分を受け入れられるのです。
②利用しているレチノールの濃度が低い
A反応は、濃度が高くなるほど出やすくなる傾向があります。
これは、肌に届けられるビタミンAの量が増えることで、細胞の入れ替わり(ターンオーバー)が急激に進むためです。
一方、低濃度のレチノールを使っている場合は、肌がゆっくりと慣れていくため、A反応が起きにくくなります。
一般的な目安として、
- 0.1%以下:初心者向けで刺激がほとんどない
- 0.3〜0.5%:中程度。軽い赤みが出る人も
- 1.0%以上:上級者向けで反応が出やすい
といわれています。
市販の化粧品は、多くが0.1〜0.3%程度の低濃度に設計されており、肌にやさしく作用しながら、時間をかけて効果を発揮するのが特徴です。
③ 肌のバリア機能が強く健康

A反応は、肌の防御力(バリア機能)が弱っているときに出やすい傾向があります。
一方で、バリア機能が整っている肌は外部刺激に強く、レチノールを塗ってもA反応が起こりにくいのが特徴です。
そのような健やかな肌は、日頃から十分な保湿やバランスの取れた食生活、質の良い睡眠などによって育まれます。
④ ビタミンAレセプター(受容体)の量が多い
レチノールは、肌細胞の中にある「ビタミンAレセプター(受容体)」と結びつくことで働きます。
この受容体は、レチノールをキャッチして細胞に届ける「通り道」のような存在です。
もともとレセプターの数が多い人や、過去にビタミンA製品を使っていた人は、刺激を感じにくく、スムーズに吸収できるため、A反応が出にくい傾向があります。
レチノールを利用する際のスキンケアのコツ
皆さんの中には、A反応がなるべく起こらないようにレチノールを利用したいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、レチノールを利用する際のスキンケアのコツを3つご紹介したいと思います。
① 使用は夜、週1〜2回からスタート
レチノールは紫外線や熱に弱く、日中の光で分解されやすい成分です。日中に使うと、光や酸素の影響で酸化・分解が進み、肌刺激の原因になることもあります。
そのため、成分の安定性を保ち、不要な刺激を防ぐため、夜のみ使用することをおすすめします。
また、使い始めの肌はまだレチノールに慣れていないため、いきなり毎日使うとターンオーバーが急激に進み、A反応を招くことがあります。
まずは週1〜2回1回のペースから少しずつ慣らすことで、肌が受け入れ体制を整え、トラブルを最小限に抑えられるでしょう。
② 保湿を徹底してバリア機能を守る

レチノールを塗ると、角層の入れ替わりが活発になり、一時的にバリア機能が低下します。その結果、乾燥・かゆみ・ヒリつきなどのA反応(レチノイド反応)が出やすくなるのです。
そこで重要なのが、「保湿によるバリア補強」です。肌の水分を守り、外部刺激を防ぐことで、A反応を穏やかに抑えることができます。
特に以下の保湿成分を意識して取り入れましょう。
- セラミド:角層のすき間を埋めて、外部刺激から肌を守る
- ヒアルロン酸:肌内部の水分保持力を高める
- ナイアシンアミド:炎症を抑えながら、バリア機能の修復を助ける
③ ピーリング成分や高濃度ビタミンCとの併用に注意
レチノールはターンオーバー(細胞の生まれ変わり)を促す成分です。
この働きはA反応の原因にもなるため、同じく再生を促すサリチル酸・グリコール酸・乳酸などのピーリング剤を同時に使うと、肌の再生が過剰に加速してA反応を悪化させる可能性があります。
また、高濃度ビタミンC美容液も酸性度が高く、併用するとpHバランスの乱れによって赤み・乾燥・ヒリヒリが強く出やすくなることがあります。
そのため、A反応を抑えるためには「時間帯を分けて使う」ことがポイントとなります。
- 朝:ビタミンC(抗酸化ケア)
紫外線ダメージや酸化を防ぐ働きがあるため、朝の使用が効果的です。
- 夜:レチノール(再生ケア)
寝ている間の肌修復サイクルに合わせて使うことで、再生力を高めます。
このように朝と夜で役割を分けることで、刺激を抑えつつ両方のメリットを最大限に発揮できます。
A反応が出たときの正しい対処法
上記のスキンケアを実践していても、肌の状態や体調によってはA反応が出ることがあります。
A反応(赤み・皮むけ・ヒリヒリなど)が出たときは、まず無理に使い続けず一度休むことが大切です。肌の炎症が強いまま使い続けると、バリア機能がさらに低下し、回復が遅れる原因になります。
次に、保湿を徹底しましょう。セラミドやヒアルロン酸、ナイアシンアミドなどを配合した低刺激の保湿剤で、肌を守りながらうるおいを補います。皮むけ部分は絶対にこすらず、ワセリンなどでやさしく保護すると安心です。
症状が2週間以上続く・痛みや滲出液がある場合は、A反応ではなく炎症や接触性皮膚炎の可能性もあるため、早めに皮膚科を受診しましょう。
焦らず肌を休ませ、落ち着いたら低濃度・低頻度から再開するのが安全です。
美容効果が期待できる「CBD」とは
ここからは、美容業界で近年注目を集めている成分「CBD(カンナビジオール)」について解説します。
CBDとは?

CBD(カンナビジオール)は、大麻草(ヘンプ)から抽出される天然由来の有用成分です。
「大麻」と聞くと違法性や依存性をイメージしがちですが、CBDには精神を高揚させる作用や依存性は一切なく、違法成分であるTHCとはまったく異なる物質です。
CBDにはリラックス効果・ストレス緩和・睡眠の質の向上などの作用が報告されており、健康分野だけでなくスキンケア・ヘアケアなどの美容領域でも広く活用が進んでいます。
CBDに期待できる3つの美容効果
ここでは、CBDに期待できる3つの美容効果について解説したいと思います。
① 肌のうるおいを守る保湿サポート
乾燥は小ジワやごわつきの原因となりますが、CBDが肌のうるおいバリアを助ける可能性が報告されています。
2021年の動物実験では、1%濃度のCBD溶液をマウス皮膚に塗布したところ、水分量が約1.3倍に増加したという結果が得られました。
一方、3%濃度では明確な保湿効果が見られなかったため、適切な濃度設計が重要であることも示唆されています。
② 皮脂バランスを整え、ニキビをケア
CBDには、皮脂分泌をコントロールし炎症を抑える作用があるとされています。
2014年の細胞実験では、CBDが皮脂腺細胞の働きを調整し、過剰な皮脂分泌を抑制することが確認されました。
同時に、炎症因子の働きを弱める効果も示されており、ニキビや吹き出物の悪化を防ぐサポート成分として注目されています。
近年では、CBDを配合した化粧水・美容液・クリームなどが登場しており、皮脂トラブル対策アイテムとして人気が高まっています。
③ 傷跡や肌ダメージの改善サポート

CBDは、肌の修復を助ける作用にも注目が集まっています。
イタリアで行われた臨床試験では、アトピー性皮膚炎やニキビによる傷跡のある患者20名にCBD配合軟膏を1日2回・90日間塗布したところ、多くの被験者で傷跡の改善や消失が確認されました。
このことから、CBDは敏感肌やダメージを受けやすい肌質の方にも適した、低刺激で再生を助ける成分として期待されています。
まとめ
レチノールを使ってもA反応が出ないからといって、「効果がない」わけではありません。
むしろ、A反応が出にくいということは、肌が健康でバリア機能が整い、レチノールを安定して受け入れられている理想的な状態といえます。
一方で、使い方を誤ると刺激や乾燥などのトラブルにつながることもあります。焦らず、低濃度・低頻度からスタートし、保湿を徹底しながら、自分の肌のペースで慣らしていくことが大切です。
また、近年注目されているCBD(カンナビジオール)は、肌を整えるサポート成分として注目されています。
肌を健やかに保ちながら、より効果的なエイジングケアを目指す方にとって、CBD配合のスキンケアは新しい選択肢となるでしょう。
肌の状態や反応は人それぞれ。大切なのは、「反応の有無」ではなく、自分の肌に合った方法で続けることです。正しい知識と適切なケアで、無理なく美肌を育てていきましょう。
【参考文献】
- Ikarashi, N., Shiseki, M., Yoshida, R., Tabata, K., Kimura, R., Watanabe, T., Kon, R., Sakai, H., & Kamei, J. (2021).Cannabidiol application increases cutaneous aquaporin-3 and exerts a skin moisturizing effect.Pharmaceuticals, 14(9), 879.https://doi.org/10.3390/ph14090879
- Oláh, A., Tóth, B. I., Borbíró, I., Sugawara, K., Szöllősi, A. G., Czifra, G., Pál, B., Ambrus, L., Kloepper, J., Camera, E., Ludovici, M., Picardo, M., Voets, T., Zouboulis, C. C., Paus, R., & Bíró, T. (2014).
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Journal of Clinical Investigation, 124(9), 3713–3724.https://doi.org/10.1172/JCI64628 - Palmieri, B., Laurino, C., & Vadalà, M. (2019).A therapeutic effect of CBD-enriched ointment in inflammatory skin diseases and cutaneous scars.Clinical Therapeutics, 170(2), e93–e99.https://doi.org/10.7417/CT.2019.2116
