2023年12月、約70年ぶりに日本は大麻取締法を改正し、「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」が公布されました。
改正案の中でも、THCの上限値に関する内容は特に注目を集めており、現在も様々なところで議論が行われています。
また、直近では厚生労働省によって、大麻規制に関する「パブリックコメント(一般市民からの意見)」が募集されています。
本記事では、薬剤師である私が「日本のTHCの上限値」や「世界各国の上限値」などについて解説したいと思います。
また、現在X(旧Twitter)・Instagramにて、CBDを含む大麻成分に関する情報をエビデンスを基に発信しているので、気になった方は是非チェックしてみてください!
日本における大麻取締法改正の概要
日本のTHCの上限値を知るにあたって、2023年12月に行われた「大麻取締法改正」を理解することは非常に重要となります。
ここでは、大麻取締法改正の「背景や改正案の詳細」をご紹介したいと思うので、是非参考にしてみてください。
2023年12月の法改正の背景
これまで、日本では大麻の利用が厳しく規制されており、海外の国々とは違って、大麻の栽培、輸出入、医療目的での利用が原則として禁止されていました。
しかし、ここ数年、日本において「医療分野における大麻成分の認知拡大」や「CBD市場の急速な拡大」が見られました。
実際、大麻由来成分であるCBDを医薬品として利用するため、難治性てんかんの患者を対象とした臨床試験が始まりました。
さらに、CBDオイルやカプセル、ベイプ・グミなど様々な種類のCBD製品が伊勢丹などの百貨店などで販売されるようになりました。
このような背景から、医療と産業の両面で大麻利用の需要が年々増加し、最終的に大麻取締法の改正に繋がったと言われています。
今回の法改正によって、大麻の産業利用と医療用途での活用が法的に認められるようになり、国内産業の成長と医療分野での新しい治療法の導入が期待されます。
大麻取締法の改正案の詳細
今回の大麻取締法の改正では、「大麻の定義変更」や「Δ9‐THCの上限値の決定」・「医療用途での合法化」など様々な案が提案されています。
特に、大きなポイントは「大麻」の定義変更についてであり、具体的にはこれまでの「部位規制」から「成分規制」に変更するとされています。
ちなみに、成分規制とは、Δ9‐THCの含有量によってCBD製品や大麻草を規制する基準のことです。
この新基準により、「全ての部位から抽出されたCBD」を利用することが可能となり、CBD産業の拡大が促進すると考えられています。
また、この改正案からTHCの上限値も必要となり、産業用で栽培される大麻(ヘンプ)とCBD製品のTHC上限値がそれぞれ提案されています。
2024年5月30日〜2024年06月29日まで「パブリックコメント(一般市民からの意見)」が募集されています。
標準的なΔ9‐THCの分析方法や上限値について、ご意見がある方は電子政府の総合窓口(e-Gov)や電子メールで意見を提出してみましょう!
日本のTHC上限値はいくら?
ここでは、「産業用で栽培される大麻(ヘンプ)」と「CBD製品のTHC上限値」をそれぞれ解説したいと思います。
まず、「産業用で栽培される大麻(ヘンプ)」のTHCの上限値ですが、現段階では「0.3%」にすることが提案されています。
この「0.3%」という値は国際的な基準と一致しており、カナダやアメリカなど多くの国々で採用されています。
次に、「CBD製品のTHC上限値」ですが、これはCBD製品の種類によって以下のように提案されています。
- 油脂製品(オイル):10ppm(mg/kg = 0.001%)
- 飲料:0.10ppm(mg/kg = 0.00001%)
- その他の製品(クッキーやグミ、カプセルなど):1ppm(mg/kg = 0.0001%)
これらの値は今までに比べて、オイルは20倍、飲料は2000倍、グミやクッキー等のその他製品は200倍厳しいTHC上限値となっています。
また、飲料の数値が最も低いのは、他の飲食料品と比べ、摂取量が大きくなる場合があることが理由として考えられます。
これらのことからも分かるように、今後「THC」に対する規制はより厳しくなることが予想されます。
世界各国のCBDおよびTHC規制状況
ここまでの説明から、日本のヘンプのTHC上限値が「0.3%」ということがお分かり頂けたと思います。
ここでは、「世界各国のTHC上限値」を解説すると共に、「各国の規制に対する動き」をご説明できればと思いますので、是非最後までご覧ください。
世界におけるTHCの上限値
世界各国が設定しているTHCの上限値は、大きく「0.2%」・「0.3%」・「1.0%」に分けることができます。
例えば「0.2%」であれば、イギリスやフランス・南アフリカ・イスラエル、「0.3%」であれば、アメリカやカナダ・EU・中国・日本などが上限値として設定しています。
日本よりも上限値が高い「1.0%」であれば、オーストラリア・コロンビア・ペルー・ジンバブエといった国々が上限値として設定しています。
また、「CBD製品のTHC上限値」についてですが、実は日本とは違い、多くの国々がヘンプと同様のTHC上限値を設定しているとされています。
具体的には、国々としては
- アメリカ
- カナダ
- オーストラリア
- クロアチア
- ルクセンブルク
- チェコ
などが挙げられます。
これらのことからも分かるように、日本は世界と比べて「大麻(ヘンプ)」のTHC上限値はあまり変わりませんが、「CBD製品のTHC上限値」は圧倒的に低くなっています。
各国の規制緩和の動きとその理由
実は近年、いくつかの国では「ヘンプのTHC上限値」を引き上げるといった規制緩和の動きが見られています。
例えば、EUは2023年以降今までの0.2%から0.3%に、チェコは0.3%から1.0%に「ヘンプのTHC上限値」を引き上げています。
また、2024年8月から2027年2月までの間に、ウクライナで0.2%〜0.3%にTHC上限値を引き上げる予定であることが分かっています。
これらの国々で、THC上限値が引き上げれるといった動きが見られる理由としては、
- ヘンプのロスを削減するため
- 大麻の品種を増やし経済効果を高めるため
- CBDの抽出プロセスを効率化するため
- フルスペクトラム製品の需要に応えるため
などが考えられます。
このように、各国では、THC上限値の引き上げが進むことで、規制緩和に伴う産業の成長と消費者需要の高まりが期待されます。
厳しい規制をしている国もある
近年、各国でヘンプのTHC上限値が引き上げられる動きが見られますが、一方で厳しい規制を維持している国も少なくありません。
例えば、韓国やシンガポールでは、医療用途であっても大麻の使用が厳しく制限されており、違法となっています。
さらに、香港や中国では、THCが含まれる製品の輸入や使用は厳しく禁止されていることに加え、CBD製品自体も違法となっています。
このような国々では、大麻関連製品に対する厳格な法的制限が続いており、規制緩和の動きとは対照的な状況が見られます。
THCの厳しい上限値によって生じる問題
上記でも説明したように、日本は世界と比べて「大麻(ヘンプ)」のTHC上限値はあまり変わりませんが、「CBD製品のTHC上限値」を圧倒的に低くしようとしています。
実は、この「CBD製品のTHC上限値の低さ」が原因で、いくつか問題が生じるのではないかと考えられています。
ここでは、「CBD製品のTHC上限値の低さ」が原因で起きうる問題を2つご紹介したいと思います。
既存のCBD製品を購入できなくなる
上記で説明したように、現在、厚生労働省から提案されている「CBD製品のTHC上限値」は、0.001%(10ppm)〜0.00001%(1ppm)となっています。
これは世界基準の「0.3%」と比べると、300倍〜3万倍厳しい品質基準を求められることになります。
一見すると、厳しい品質基準は消費者保護の観点から良いことのように感じられます。
しかし、品質基準が厳し過ぎる場合、かえって消費者にとって良くない事態が引き起こされかねません。
どういう意味でしょうか。
このままの厚生労働省の基準が採用された場合に起きうる事態を簡単に解説しましょう。
暑い夏が続くある日、あなたは日本で流通している、厳しい基準を満たした(Δ9‐THC濃度:1ppm以下)CBDグミを、車でコンビニに買いに行きます。
途中まで食べたが翌日以降にも食べようと、車の中にCBDグミを置いておきました。
数日後、そのCBDグミはまだ食べられる状態だったのでグミを完食しました。
直後、警察官に職務質問をされ、大麻の尿検査を実施することに。
すると、グミの中のCBDが連日の暑さにより極ごく微量のΔ9‐THCに変化していたことがわかりました。
購入した当初はΔ9‐THCの基準値を満たしていたとしても、Δ9‐THCの基準値が厳しすぎると、日常生活において簡単に基準値を越える可能性が出てくるのです。
その結果、麻薬及び向精神薬取締法違反として検挙されてしまう可能性が逆に高まってくるのです。
当然のことながら、それを販売した事業者も検挙される恐れがあります。
これまではΔ9‐THCの検査上限値は200ppm以下であったために、起き得なかった問題も、基準値が厳しくなり過ぎると問題が出てくるのです。
CBD原料やグミ、クッキー等のΔ9‐THC濃度上限値1ppm以下という数値は、それくらい簡単にΔ9‐THCが存在していると判断されてしまうような基準値なのです。
もし提案されている「CBD製品のTHC上限値」が採用されると、現在流通しているCBD製品の9割近くが販売ができなくなると考えられています。
事業者としては、製造プロセスや検査方法の大幅な改善を必要とし、結果としてCBD製品の価格が上昇する可能性が考えられます。
また、規制が厳しくなった場合、偽造品や粗悪品などが流通するリスクも増えるため、CBD製品に対する信頼性の低下や消費者の健康を害することに繋がる可能性があり、健全な市場形成が難しくなると考えられます。
CBD製品の効果が十分に感じられなくなる
日本で流通しているCBD製品は、「CBDのみを含んだアイソレート」と「CBD以外の成分も含むブロードスペクトラム」の2種類に分けることができます。
ブロードスペクトラム製品は複数の成分で相加・相乗効果を狙って、アイソレート製品で効果を感じにくかった方でも効果を得られるようになると言われており、日本でも高い人気を誇っています。
しかし、現在提案されている「CBD製品のTHC上限値(1ppm〜10ppm)」では、ブロードスペクトラム製品の販売・購入が非常に困難になることが考えられます。
そのため、これまでブロードスペクトラムを利用していた方々は、CBDアイソレートしか使うことができず、効果が十分に感じられなくなる可能性があります。
今まで、カンナビノイド製品において医薬品が存在せず、サプリメントを医薬品の代わりとして利用してきた、カンナビノイド医療患者会のてんかん患者さんにとっては死活問題です。
THCの上限値はいくつが最適?
ここまで、日本や世界各国のTHC上限値について解説してきましたが、結局どの数値が最適なのでしょうか?
結論から言うと、THC上限値にこれという正しい答えはありません。
実際、世界基準と言われる「0.3%」も仮定から採用されたものであり、科学的な根拠は一切ないことが分かっています。
「0.3%」数値を提案したアーネスト・スモール氏も、「0.3%という数値は恣意的なものである」ということを認めています。
日本において、Δ9‐THC濃度の上限値をいくつに設定するか。
消費者にとって、できるだけ安価で、安心して利用できる濃度とするならば、このままの濃度である、200ppm(0.02%)程度のままでよいと個人的には思います。
但し、CBD製品の流通には顧客の健康管理を行える医師や薬剤師等の医療関係者によって適切に管理される必要があると考えています。
また、ベイプやCBDリキッド等のいわゆる雑貨に分類される製品の肺への傷害性等が未だ未解明な点が多いことから流通の規制が必要であると感じています。