スポーツの大会などで「ステロイド剤」や「筋力増強剤」などの薬物を使用してしまうとドーピング違反として処罰の対象になります。
大麻も例外ではなく、上記の薬物と同様に大会前などに利用すると、ドーピング違反になることが分かっています。
では、大麻由来の成分でもある「CBD」はどうなのでしょうか?
本記事では、薬剤時の私が「CBDはドーピング検査で違反になるのか」ということを徹底的に解説したいと思います。
また、現在X(旧Twitter)・Instagramにて、CBDを含む大麻成分に関する情報をエビデンスを基に発信しているので、是非チェックしてみてください!
CBDとは?
CBDは、カンナビジオール(Cannabidiol)の略称で、大麻草に含まれる主成分の1つです。
CBDは大麻草に含まれる成分ですが、「危険性」や「依存性」が無いことが分かっています。
CBDの安全性の高さは、「WHO(世界保健機関)」からも認められており、日本でも合法的に利用することができます。
また、CBDは過去の研究から、
- リラックス効果
- 睡眠の質の向上
- 抗炎症作用
- 集中力アップ
- 抗菌作用
- 鎮痛作用
- 血圧の低下
などの効果が期待されています。
CBDは上記の効果から様々な疾患に対しても効果が期待されており、実際に海外ではてんかんの治療薬としても利用されています。
CBDはドーピング検査に引っかかる?
CBDは様々な効果が期待されており、日本でも合法的に利用することができます。
ここでは、「CBDはドーピング検査で違反になるのか」ということを詳しく解説したいと思います。
CBDはドーピング検査で違反にならない
CBDが大麻由来の成分であることから、「ドーピング検査で陽性となるのでは?」と不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、結論から言うと、CBDを摂取したとしてもドーピング検査で違反となることはありません。
そもそも、ドーピング検査で違反となる禁止薬物は、「WADA(世界アンチ・ドーピング機構)」によって規定されています。
WADAとは、世界各国における「公正なドーピング防止活動の促進」と「ドーピングの根絶」を目的とした国際機関のことです。
そんな「WADA(世界アンチ・ドーピング機構)」ですが、2018年に「CBD」を禁止薬物リストから除外したことが分かっています。
そのため、アスリートが大会などでCBDを利用しても、ドーピング検査で違反になることはありません。
THCはドーピング検査で違反になる
THCとは、CBDと同じ大麻草に含まれるカンナビノイド成分の1つであり、日本では違法成分として扱われています。
この「THC」はCBDと違い、WADAによって禁止薬物に指定されており、検査で摂取したことが発覚すると、失格や出場停止処分になる可能性があります。
ただ、最近では一部の科学者から、THCには精神面や肉体面でのパフォーマンスを向上する効果は無いのではないかという意見も挙げられており、規制の緩和を求める声も上がっています。
実際、WADAもTHCに関する規定を改定する姿勢を見せており、2013年にはTHCの尿中閾値の限界量を緩和しています。
現在は禁止されている「THC」ですが、今後パフォーマンス向上の効果を否定できれば、CBDと同様に禁止薬物リストから除外されるかもしれません。
CBD製品の種類によって注意が必要
ここまでの説明から、CBDはドーピング検査で違反にならないことがお分かり頂けたと思います。
しかし、使用するCBD製品の種類によっては、ドーピング検査で違反になる可能性があります。
ここでは、CBD製品の種類を3つご紹介すると共に、どの製品を使えばドーピング違反にならないかを解説したいと思います。
フルスペクトラム
フルスペクトラムとは、大麻草の全ての成分(CBDやTHC・CBG・CBN・テルペンなど)を含んだCBD製品のことです。
この製品は、上記でも紹介した禁止薬物である「THC」を含んでいるため、ドーピング検査では違反となります。
フルスペクトラムは、日本では法律によって使用や所持が禁止されていますが、海外の一部地域では利用・販売することができます。
そのため、海外産のCBD製品を利用している方や、海外に住んでいる方は、購入時に成分表示を確認し、「フルスペクトラム」ではないことを確認することをおすすめします。
また、日本でも稀に、楽天などのショッピングサイトで「フルスペクトラム」と表記されているCBD製品が販売されていることがありますが、THCは含まれていません。
ブロードスペクトラム
ブロードスペクトラムとは、CBDやCBG・CBNなどのTHC以外の大麻成分を含んだCBD製品のことです。
このCBD製品は「THC」を含んでいないため、日本でも合法的に利用できますが、ドーピング検査では違反となる可能性があります。
なぜなら、WADAが禁止リストから除外してるのは「CBD」のみであり、「CBG」や「CBN」などのカンナビノイド成分は使用が許可されていないからです。
現時点では、ブロードスペクトラムが原因と断定されたドーピング違反は確認されていませんが、検査で陽性になる可能性は十分に考えられるため、注意する必要があります。
アイソレート
アイソレートとは、「CBDのみ」を含んだCBD製品のことです。
この製品は、CBD以外のカンナビノイド成分が含まれていないため、ドーピング検査で違反となることはありません。
また、アイソレートはブロードスペクトラムより期待できる効果は弱いですが、ブロードスペクトラムの約2〜3分の1の値段で購入することができます。
これらのことから、アスリートの方がCBD製品を利用したい場合は、アイソレート製品を利用することをおすすめします。
CBDがアスリートにおすすめな理由
「CBD」を利用することで、どのような効果が期待できるのでしょうか?
ここでは、CBDを利用することで期待できる6つの効果をご紹介します。
痛みを緩和する
試合や練習の中で怪我をしてしまい、体を痛めた経験がある方は多いと思います。
CBDは「TRPV1」と呼ばれる受容体に作用することで、痛みを緩和する効果が期待されています。
「TRPV1」とは、痛みなどの刺激を感じる上で重要な役割を担っている受容体であり、末梢神経に多く存在しています。
実際に2019年の動物実験では、CBDが「TRPV1」に直接的に作用することで、痛みを緩和したことが示唆されています。
また、CBDには市販の鎮痛剤のような「胃腸障害」や「頭痛」などの副作用が無いと考えられています。
これらのことから、スポーツを行う中で感じた痛みを緩和したい方は、CBDを利用することをおすすめします。
炎症を緩和する
スポーツをする中で、膝などの関節などに負荷がかかり、慢性的な炎症が引き起こされてしまうことがあります。
CBDには「抗炎症作用」があるとされており、炎症を緩和する効果が期待されています。
2017年の研究では、変形性関節症のマウスにCBD(100〜300μg)を投与し、有用性を評価する実験が行われました。
変形性関節症とは、関節の摩擦によって炎症などが生じる疾患であり、アスリートにも多く起こるとされています。
実験の結果、CBDを投与されたマウスは、関節の炎症が緩和したことが報告されました。
さらに、この実験では、CBDは「神経保護作用」によって、関節の炎症を予防する可能性も示唆されました。
この研究は動物実験レベルですが、関節に起こる「炎症」に対するCBDの有用性を示しています。
不安やストレスを軽減する
アスリートがパフォーマンスを最大限発揮するためには、不安やストレスを軽減することが重要になります。
CBDには、ストレスや不安を軽減する「セロトニン」の分泌を促進する効果があるのではないかと考えられています。
アメリカの研究では、複数のラットに対してCBD(5mg/日)を3週間投与し、ラットのセロトニン分泌量の増減が観察されました。
その結果、CBDを投与されたラットは、セロトニンの分泌量が増加し、抗パニック効果が誘発されたことが示唆されました。
この研究は動物実験レベルですが、CBDがセロトニンの分泌を促進する可能性を示唆しています。
睡眠の質を高める
トレーニングや大会の疲労を回復をするためには、質の高い睡眠を取ることも重要になります。
CBDは睡眠の質を改善することで、質の良い睡眠を促す効果が期待されています。
2022年に行われた研究では、被験者にCBDオイル(5%)を投与することで、睡眠に対する有用性が評価されました。
その結果、CBDを投与された被験者は、「徐波睡眠」の割合が増加し、睡眠の質が高まったことが報告されました。
徐波睡眠とは、最も深い睡眠の状態のことであり、睡眠の質に大きく関係していると考えられています。
睡眠をCBDで改善したい方は、効果時間が長い「CBDサプリメント」などを就寝前に摂取することがおすすめです。
疲労回復
CBDは、トレーニングや大会などによる疲労を回復する効果も期待されています。
疲労は、体内で発生した「活性酸素」が細胞機能を低下させることで起こると考えられています。
CBDには、「抗酸化作用」があるとされており、「活性酸素」を除去することで疲労を回復する効果が期待されています。
実際に2021年の研究では、CBDには強い抗酸化作用のある「ビタミンE」と同等の効果があることが報告されています。
この結果は、CBDが疲労の原因となる「活性酸素」の働きを抑制する可能性を示唆しています。
脳に対するダメージを緩和する
ラグビーなどの激しいスポーツは脳を損傷しやすく、手足の麻痺などの神経障害などが起こることがあります。
CBDは、脳の外的損傷が原因で起こる神経障害を改善する効果が期待されています。
2019年の研究では、CBDを外傷性脳損傷を負ったマウスに投与し、有用性を評価する実験が行われました。
外傷性脳損傷とは、脳に強いダメージが加わることで、脳が出血したり、傷ついたりしている状態のことです。
この実験では、11日間または14日間、10%のCBDオイルをマウスに経口投与しました。
その結果、CBDを投与されたマウスは、脳損傷による「神経障害」や「社会的行動障害」が改善したことが報告されました。
この研究はCBDの脳損傷に対する治療法としての可能性を示唆しており、今後の研究に注目が集まります。
CBDとスポーツ業界の現状
ここまでの説明から、「CBDを利用することで、どのような効果を期待できるか」ということがお分かり頂けたと思います。
ここでは、CBDとスポーツ業界の現状について解説したいと思います。
CBDは多くのアスリートに利用されている
CBDは上記で紹介したような効果から、多くのアスリートにも利用されています。
実際に日本では、K-1王者である武尊選手などもストレス緩和のためにCBDを愛用していることが分かっています。
また、海外では、アメリカンフットボール・バスケットボール・テニスなどの幅広い種目の選手にも利用されており、多くのメリットを与えています。
例えば、元アメリカンフットボール選手の「Terrell Davis」は、「CBDの摂取を始めてから鎮痛剤を一切利用しなくなった」ことを明かしています。
このように、CBDはパフォーマンスを最大限発揮するために、日本を含めた世界中のアスリートに利用されています。
CBDメーカーはスポンサーにもなっている
近年では、アスリートやスポーツマンに向けたCBD製品が世界中で販売されるようになってきています。
そんな中、CBDメーカーがスポーツ大会やイベントのスポンサーを務めることも珍しいことではありません。
実際に、過去には日本のCBDブランドである「+WEED(プラスウィード)」が格闘技団体である「RIZIN」のスポンサーを務めていました。
また、海外でもCBDメーカーが多くの大会やイベントのスポンサーを行なっていることが分かっています。
CBD薬剤師の質問コーナー
CBDブロードスペクトラムのメリットは?
ブロードスペクトラムの最大のメリットとしては、他の大麻成分の効果を期待できることが挙げられます。
例えば、CBGには「食欲増進作用」や「抗炎症作用」、CBNには「鎮痛作用」や「睡眠の補助」などが期待されています。
また、大麻草には「カンナビノイド成分」の他に「テルペン」と呼ばれる成分も含まれてます。
テルペンとは、多くの植物に含まれている芳香成分であり、大麻草には下記の5種類が含まれており、それぞれ特有の効果が期待されています。
- β-カリオフィレン(抗炎症・鎮痛・殺菌作用)
- ミルセン(リラックス・筋肉を緩和させる効果)
- α-ピネン(リラックス・血流を良くする効果)
- リモネン(強力な抗菌作用)
- リナロール(抗不安作用・ストレスの軽減)
CBD製品を購入する際の注意点は?
CBD製品を購入する際は、第三者機関の検査の有無を確認することが重要になります。
第三者機関では、違法物質や危険物質が混ざっていないかの検査が行われており、客観的な安全性が保証されます。
さらに、第三者機関では下記のような検査も行われています。
- 濃度が表記通りであるかどうか
- 表記通りの成分が含まれているか
最近では、多くの企業で第三者機関の検査が行われており、購入前に確認することをおすすめします。
参考文献
- Chronic administration of cannabidiol to healthy volunteers and epileptic patients
- A Randomized, Placebo-Controlled, Crossover Trial of Cannabis Cigarettes in Neuropathic Pain
- Proof of Concept Trial of Dronabinol in Obstructive Sleep Apnea
- The Impact of Δ9-THCon the Psychological Symptoms of Anorexia Nervosa: A Pilot Study
- Cannabinoids for behavioral symptoms in severe dementia: Safety and feasibility in a long-term pilot observational study in nineteen patients
- Medical Cannabis for Gilles de la Tourette Syndrome: An Open-Label Prospective Study
- Real life Experience of Medical Cannabis Treatment in Autism: Analysis of Safety and Efficacy